きんいろ。

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そんなやり取りがあったのが一昨日のはなし。 二日後はすぐそこだった。本当にあっという間。 昨日の夜に急いで花火を買いに行った。 みんなたぶん同じことを考えていて、花火の山になることは目に見えていたけど、ありすぎて困るものじゃないからと、樋口さんの描かれたお札が金色の硬貨一枚になるくらい買い込んだ。 まだ陽の高い十六時過ぎに駅に集合し、電車で海に向かう。 先に乗っていた人、あとから乗ってくる人、現地集合の人。 驚くことに、クラスメイトのほとんどが海に集まった。 遠浅の海岸にはまだ疎らに人がいるけど、これから、というのはわたし達だけみたいだ。 男子は揃ってズボンを太ももあたりまでたくし上げ、海へと駆け出した。 女子は持ち寄った花火の包装を解いていく。 アイスの入ったクーラーボックス、凍ったペットボトル、ハンディファン、冷感タオル。 夏の暑さに対抗するための武器であり、夏を楽しむために必要なものたち。 夜を迎える前のひとときを各々で過ごしていると、クーラーボックスを抱えて回っていた友人が近くに来た。 この間のスタンプとそっくり顔でにやりと笑って耳打ちしてくる。 「江川に話しかけなくていいの?」 「いいよ……話すこと、ないし」 江川くんは大きな流木に腰掛けてスマホを触っている。 ぬるい風が吹いたとき、江川くんの髪が揺れた。 耳にはワイヤレスイヤホンをつけていて、時折目を閉じては小指で膝を叩いていた。 江川くんの聴いている音楽を知りたい。 そんな理由でいいのなら江川くんの隣に行きたいけど、大して親しくもないわたしがいきなり話しかけても困るかもしれない。
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