きんいろ。

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「じゃあこれ、あげるから」 ぴと、と腕に当てられたのは、クーラーボックスに入っていたアイス。 ソーダ味とレモン味のアイスをふたつ渡されて、呆けていると友人は別の子たちにアイスを配りに行った。 「これ……」 体温が伝わらないように、包装袋の端を持って途方に暮れる。 ひとりでふたつも食べるわけにいかないし、他の子に託すわけにもいかない。 ぽつ、と雫が砂浜に落ちていく。 足元の水玉が五つになったとき、意を決して立ち上がった。 日陰から出てまだ陽の差す下に出ていくと、サンダル越しに砂の熱が足裏を焼く。 照り返しの眩しさに目を細めるけど、何より眩しいのは江川くんだった。 「江川くん」 「ん? ああ、奈緒」 背中から話しかけると、驚いた様子もなく顔だけを後ろに向けて江川くんはイヤホンを外す。 ドキッとした。奈緒って、名前で呼んだから。 わたしが特別なんじゃない。 江川くんは親しかろうが関わりがなかろうが、知っている子なら名前で呼ぶ。 平静を装ってアイスを差し出すと、江川くんはレモン味の方を選んだ。 「そっちでよかった?」 「うん。あ、ねえ、隣座っていい?」 「ん。そこささくれてるから、こっち」 江川くんの隣に座ると、肩が少しだけ触れ合う。 黒いシャツを着ているから熱を吸収したのか、やたらとぬくい肩をそっと避ける。 触れそうで、触れない距離。 江川くんがアイスを豪快にかじると、氷の破片が飛び散る。
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