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太陽を追いかけて夜が辺りを浸し始めた。
江川くんの髪が藍を覚え始めるころ、遠くで誰かが花火開始の音頭を取る。
「行かないの?」
「行かねえの?」
ほぼ同時にお互いの顔を見合わせた。
一瞬呆けて、それから笑って。
江川くんは行ってしまうかなと思ったのだけど、手持ち花火の灯りが集まって弾ける方を眺めてる。
「花火、なんで嫌いなん」
「嫌いとまでは言ってないよ」
「そうだっけ。好きじゃないだけ?」
「ううん、きらい」
嫌いなんじゃん、って江川くんが吐息に笑いをまぜる。
ちゃんと声を上げて笑わなかったのは、たぶん江川くんも花火は好きじゃないからだと思う。
「花火のときの、足元がきらいなの」
「それは……聞いたことないな」
「うーん、足元とか、花火の光が届かない遠くとか。灯り終わったあとの、煙のにおいだけが残る感じとか、花火の雰囲気がきらい」
「ああ、それならわかるかも」
伝わってよかったというより、汲み取ってくれてよかった。
伸びていた影が足元まで戻ってきて、見えなくなった。
夜はきらいじゃないけど、夜にのまれるのはきらい。
花火のいのちは数秒しかなくて、それが尽きる瞬間をいくつも目にするのがいやだった。
寂しいだとか、そういう気持ちになぞらえられたらまだ共感を得られたのかもしれない。
でもわたしのは、確かに嫌悪を交えていた。
もちろん、綺麗なものは綺麗だけど。
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