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賑やかな声たちは音にはなるけど、言葉にはならない。
きゃあきゃあ、わあわあ、騒がしさが心地好い。
「江川くんは?」
「なんでだろうな」
「わかってないの?」
「強いていうなら、何が楽しいのかわからない。特に、手持ち花火なんかは。見るだけでいい」
「冷めてるねえ」
「悪かったな。奈緒みたいに叙情的じゃなくて」
叙情的って言葉を選ぶのも、また名前で呼んでくれたのも、うれしい。
こうして江川くんの隣に座っていられるだけで、今日ここに来た意味がある。
器にいっぱい、しあわせを乗せたような時間が流れていく。
「江川くんは、この前のプールは行ってたんだっけ」
「いや、泳ぐの好きじゃねえし」
「じゃあ、なにが好き?」
プールの写真に江川くんは写っていなかったけど、もしかしたらカメラを避けただけかもしれなかったから、一応きいてみた。
泳ぐのも、花火も好きじゃないというのなら、江川くんに夏の楽しみはあるのかが気になる。
「イルカ」
「水族館かあ……江川くんはこう、クラゲの前でぽわぽわしてそう」
「なんだよ、ぽわぽわって」
「ぼーっとしてそうな感じ」
失礼だなって言いながらも、江川くんはあんまり感情を揺らしたように見えなかった。
些細な機微すらも感じさせない。
透明感は江川くんの雰囲気だけでなくて、内側にも広がっているのだろう。
透けているのに、底が見えなくて、心までの距離が果てしない。
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