4人が本棚に入れています
本棚に追加
水族館のトンネル水槽を潜るとき、江川くんの金髪はどんな風に輝くのかな。
海の青も、水の青も、夜の青も、青でなくても、江川くんを染められる色なんてない気がした。
たとえばそう、同じ、透明に近い色でなければ。
「夏祭りもさ」
「うん」
「遊園地も」
「うん」
「川も、海も、花火も」
言いかけて深く項垂れた江川くんを見ていられなかった。
わたしが、そんな江川くんを見たくなかった。
「きらいなんだよ、ぜんぶ」
夏に関わることはぜんぶが嫌いだと言った。
水族館だって本当は好きじゃないんだと思う。
「金色が好きだって葵は言ってたけど、こんな色じゃ、意味がないんだよな」
ふわりと揺れていた髪をひと房掴んで、江川くんは自分の髪を思い切り引っ張った。
ぷつっと音を立てて切れた何本かが指先に絡みついて、それすら煩わしいというように振り払う。
風に煽られて力なく飛び落ちた髪の色は、かぎりなく、くすんでいて。
たとえ江川くんの髪が綺麗なきんいろに染まったとしても、染まる日が来たとしても、葵は見向きもしない。
去年、江川くんと夏祭りに行って、遊園地で遊んで、川で釣りをして、海で泳いで、花火を見て、夏を彼とともに過ごした葵は言っていた。
『これでもう、諦めるんだって』
そう、夏休みの最終日にわたしに零しさえしなければ、葵の存在をこんなに疎ましく思うことはなかった。
最初のコメントを投稿しよう!