きんいろ。

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水族館のトンネル水槽を潜るとき、江川くんの金髪はどんな風に輝くのかな。 海の青も、水の青も、夜の青も、青でなくても、江川くんを染められる色なんてない気がした。 たとえばそう、同じ、透明に近い色でなければ。 「夏祭りもさ」 「うん」 「遊園地も」 「うん」 「川も、海も、花火も」 言いかけて深く項垂れた江川くんを見ていられなかった。 わたしが、そんな江川くんを見たくなかった。 「きらいなんだよ、ぜんぶ」 夏に関わることはぜんぶが嫌いだと言った。 水族館だって本当は好きじゃないんだと思う。 「金色が好きだって葵は言ってたけど、こんな色じゃ、意味がないんだよな」 ふわりと揺れていた髪をひと房掴んで、江川くんは自分の髪を思い切り引っ張った。 ぷつっと音を立てて切れた何本かが指先に絡みついて、それすら煩わしいというように振り払う。 風に煽られて力なく飛び落ちた髪の色は、かぎりなく、くすんでいて。 たとえ江川くんの髪が綺麗なきんいろに染まったとしても、染まる日が来たとしても、葵は見向きもしない。 去年、江川くんと夏祭りに行って、遊園地で遊んで、川で釣りをして、海で泳いで、花火を見て、夏を彼とともに過ごした葵は言っていた。 『これでもう、諦めるんだって』 そう、夏休みの最終日にわたしに零しさえしなければ、葵の存在をこんなに疎ましく思うことはなかった。
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