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3 魂送り
すっかり日が暮れた頃、ようやく太輔は実家に着いた。
深い藍色の空に、無数の細かい星屑が散らばっている。田舎でそれより更に奥だから、街灯や家の明かりも数えるくらいだ。宗助について母から連絡があったのが今日の朝だったから、それでも、割合早く着いたほうかもしれない。
「太輔、おかえりなさい」
目を泣き腫らした母が迎えてくれた。
「宗助、ついさっき息を引き取ったの」
うん、と頷き、太輔は和室へ入った。
縁側が開け放たれ、すだれの側で風鈴がちりん、ちりんと音を立てている。父が宗助のそばに座っていた。
「間に合わなかったけどな、宗助は判っていると思うよ」
また、うん、と頷き、太輔は崩れるように、もう動かない宗助の側に座った。その手にふと目をやり、父がいぶかし気に声をかけた。
「太輔、それ何だ」
「ああ、これ……」
太輔は手に持っていた土で汚れた野球ボールに目を落とす。
「途中で思い出してさ。宗助が、門の側に埋めてたんだ」
「表でごそごそしとったのは、お前だったか。宗助も18年も生きたから、あちこちに色々隠してるんだろうな」
「父さん……俺、新幹線の中で宗助の夢見たよ」
そうか、と父は涙ぐみ、息子に見られるのが少し恥ずかしいのか、縁側の外に顔を背けた。
新幹線の中でうたた寝をしていた時、宗助の夢を見た。夢の中で、太輔は確かに宗助に話しかけていた。その途中、急に身体から何かが引きずり出されたような感覚があって、すうっと身体が楽になったように思う。昔からずっと、頭の中に靄がかかって、何者かのどろどろした手に脳みそをすっぽり掴まれていたような感じだったが、こんなにすっきりした気分は本当に何年振りだろうか。
そして、最後に宗助が叫んでいたこと。
もう意地を張ることもないだろうから、『目』を返す。門の外を掘ってみてくれ。そして、これが最後の最後。
俺のことでお前を責めるな。お前のせいじゃ無いからな、弟。
多分、そんな内容だったと思う。宗助の言葉なんて判るはずも無い。勘違いか希望的観測だとそう思ってた。思っていたが、やっぱりその通りにせずにはいられなかった。
「宗助、お前の事、弟だと思ってたからな。とても賢いいい子だった」
「うん。だからかな。夢の中で宗助、俺に一生懸命話しててさ……。華、お前の事もよろしくって言ってたよ」
泥だらけの野球ボールを、そっと宗助の前足に置いた。その白い足先に手を触れ、もう冷たくなった夕焼色の毛並みに手を埋める。横で華がくぅーんと鳴いた。
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