2 遺言

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 お前が中学生に上がった頃かな。俺が事故にあった時のことさ。  お前はあの事をどう覚えているかは判らないけど、さんざん自分のこと責めてたから、何か覚えてるんだろうな。  あの日河原で遊んだのは夕暮れだった。河原の上を通る道は、通り抜けにするには不便なんであまり車も通らない。散歩やランニングで通るくらいで、案外寂しいところだ。  あん時、俺らもブラブラしてて、電車が走る音とか、野球か何かをグラウンドでしている声とかが遠くに聞こえてた。それ以外は風の音くらいだったな。  お前が急に振り返ったのはその時だった。無表情で目が真っ黒、ぽっかりと2つの穴に見えて、俺は正直身構えちまった。お前なのに。お前がボールを投げたのはその後だ。宗助、取って来てよって。ニカッて笑ってさ。俺が死ぬことになんの躊躇(ためら)いも無かったんだろう。  言っとくが太輔、この話はお前を責める為じゃない。お前、あん時どんな状態だった? 何か気付くことはねえか?  お前、魔が差してたんだよ」  空中に浮かぶ白い空間の中で、太輔は微かに身じろぎした。眉間に強くしわを刻み、苦しそうにしている。    「お前の中の何かが呼び込んだのかな……そこんとこは判らないけどな。お前の中に、ずうっと何かがいるぞ。おい、俺のこと、覚えてるんだろ?」  その瞬間、白い空間に太輔が眼を見開いてこちらを見据えた。大きく開いた目には光はなく、まん丸の黒いビー玉のような瞳だ。顔からは力が抜け、白茶けて表情も無い。  宗助は、唸り声をあげて歯を打ち鳴らした。白い闇の中に浮かぶ太輔ではない何かに、身を乗り出して嚙みついた。喰らいつき、深く嚙み締めたまま、こちら側へ引きずり出す。  「おい、勝手をするな」  船頭の言葉を無視し、今やうっすらと黒い(もや)のような人型を、宗助は嚙み裂き、踏みつぶした。  
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