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「……ほれ、見ろ。やっぱりずっと太輔の中にいやがったんだ。
太輔、お前はもともと強いから、引き寄せてしまうんだよ。押さえていたんだろうが、こんなのはあまり良くない。俺が持っていく」
黑い靄のようなモノは、うごめき砂の上で暴れている。宗助は足で押さえつけながら、船頭に声をかけた。
「これ、一緒に連れて行ってくれないか。あんたの役目だろう」
「外れたモノだ。断る。……と言いたいが」
船頭は笠のふちに指をかけ、砂をまき散らし暴れるモノを透かし視る。
「ここまで来てしまっているのは仕方がない。放っておく訳にもいかないからな。貴様が押さえておくなら良いだろう」
宗助は笑って、また太輔が映る白い窓を見上げた。太輔はぐったりと座席にもたれかかっている。だが、顔色は大分良くなってきているようだ。
「……太輔。これで最後だ。
お前は気が弱そうでいて強情だから、今回のコレも、自分で何とか出来るって思ってたんだろう。でもこういう事については、大抵は何ともならんからな。危なさそうな場所や物や人は、避けるんだ。少しは、判るんだろう?
あとは、忙しいのは判るけど、ちゃんと父さんや母さんと連絡を取れ。飯も食えよ。帰った時は、華も散歩させたり構ってやってくれ」
宗助は足元の黒い靄を咥え、立ち上がった。
伝えないといけないことは伝えたし、やり残した事ももうない。船頭が、竿を持ち直した。
「最後に何か妙な事を言っていたような気がするが、伝えたい事は伝えきったようだな。急げ。もう日が落ちる」
ああ、と言いかけて、宗助はもう一度太助の方を振り向いた。
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