フタリガシアワセ、フタリガシアワセ

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「泣くなとは、言わない。気の済むまで思い切り泣け」 「ああああ! ああああああ!!!!」  俺が抱きしめた腕のなかで、セリアが胸に顔をうずめながらシャツを掴んで慟哭した。  彼女は家族を失った。彼女は故郷へ帰れない。その感情は、理解しようとすることすらも傲慢と言えてしまうだろう。 「セリア、ひとつ聞いていいか?」  俺は泣き声の収まったセリアに聞いた。 「?」 「フィーネ……さんって、どんなひとだった?」  聞いたら気の毒な気持ちはあったが、どうしても気になる気持ちが勝った。 「……」 「答えたくないなら答えなくていい」  強要はしない。嫌なら嫌で、拒否の言葉が欲しかっただけ。 「トモダチ。ズットモ」 「ドウキュウセイ。アタマヨカッタ。セリアノメシツカイナレタ」  旧知の仲で、セリアん家みたいな名家の召使いになれたエリート、って解釈でいいかな。 「フィーネイッテタ。魅了の魔法(チャーム)、オンナノタシナミ。オソロノタトゥー。オンナノタシナミ」  両眼とタトゥーが妖しく光る。この辺はダークエルフの価値観だな。これ流行りのコスメや香水感覚だったんだ。 「ナンデモイッショ、ズットイッショ」 「デモセリアトバサレタ」 「フィーネ、ナイテタ」  命を賭してでも守ってくれた無二の親友……か。つくづく酷い仕打ちを受けたもんだ。 「そっか、フィーネのぶんまで生きないとな。そのために逃してくれたんだ」  俺はセリアの頭を撫でた。特別な事情があるだろうとは思ったが、聞いてみると実に凄惨な話だった。 「ハジメ、シャツキタナイ」  シャツが涙で濡れていた。気にするなよ。 「ウジムシノタイエキ、キタナイ」 「そんなこと言うな」  俺は蛆虫とやらの唇を奪い、目一杯舌をねじ込んだ。口腔内の体液を、好き放題に舐め取ってやった。  セリアは身体を強張らせ、震えさせたのち全身の力を抜いて身の全てをこちらに委ねた。 「ハジメ、モット」  セリアが下着の中に直接手を入れ、男の形をなぞるように撫でまわす。 「女であれば美しく煽情的でなければ為す術もなく滅んだわ」  俺は先程のアーテルの言葉を思い出した。  身に纏う全ての衣服をその場で脱ぎ捨て、セリアの衣服を一糸纏わぬ姿になるまで剥ぎ取ったのちにベッドの上で組み敷いた。 「今日は一切我慢しないからな」 「あはっ♪ ハジメェ……」  俺は己の五感全てを使ってセリアの身体を貪った。丸く柔らかな女体の感触、粘膜の味、体液の匂い、呼吸器官が奏でる嬌声、その艶やかな視覚情報。  怒張しきったその先を、濡れた入り口にあてがった。欲望の海に飛び込むように、中へ奥へとどん詰まりまで押し込んだ。  生殖本能の赴くがままに腰を打ちつけ、左右の乳房にそれぞれ一発吐き出したのち、最後はセリアに見せつけるようにその顔面へとぶちまけた。  俺は支配感と背徳感に襲われながら力尽きた。 「ふふ、カワイイ」  吐き出し尽くしてうなだれるようにぶら下がった小動物をセリアが愛でた。  その先から滴る液を、セリアが口でついばむように吸い取った。  俺はセリアの顔を身体をべっとりと汚し尽くしたその生臭さをティッシュで拭い、セリアの隣に寝そべった。 「ハジメ」  腕を枕に寄り添うように寝そべるセリアが、俺の胸の先端を転がすように弄んだ。 「セリア、オンナ。ハジメシヌマデ」  あの若々しい見た目の母ちゃんが80だもんな。俺の余命は、せいぜいあと50年といったところだ。 「ダカラ。ハジメ、デキル、シヌマデ」 「おまえ、俺が死んだあとはどうするんだ?」 「ハジメ! シヌ! ダメ!」  セリアが両眼に涙を浮かべた。俺ははっとなって気まずくなった。こいつは家族と親友に先立たれた事実を知ってショックを受けたばかりだった。  だが俺は、残念ながら『短命種』だ。それは逃れる術の無い未来だ。 「ハジメ、シヌ、ワラッテ」  セリアが何かを振り払うように顔を横に振ったのち、諭すような目をこちらに向けた。 「ハジメ、イキル、シアワセ。サイゴシヌ、ワラッテ」 「セリアシアワセ」  あまりに健気な話だが、逆に俺の甲斐性じゃそれが限界かもな。 「そうか、その頃俺は腹の出たハゲのボケジジイかもだぞ」 「セリア、オンナ。ハジメノ。シヌマデ」  セリアが俺の股間を跨いだ。俺は反応させられなかった。 「そりゃありがとうな。責任持ってシアワセに生きないとな」  だからかわりに、セリアの頭を抱き寄せ表情と唇で答えた。 「フタリガシアワセ、フタリガシアワセ」  俺は生まれ故郷に居場所を無くし退路の絶たれたシアワセを、力いっぱい抱きしめた。 ―― 中章:フタリガシアワセ、フタリガシアワセ the end ――
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