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この女は離れようとすると起きかける。首の後ろに絡ませた腕に力が入る。
暑く寝苦しい夏の夜、俺は大きな湯たんぽとともに眠りについた。
「暑っ!!!」
実に最悪の目覚めだった。一週間溜めに溜めた疲労のなかで沈み込むように気絶した朝。
べとついた肌がちりちり火照る。これ以上汗をかけなくなった、典型的な熱中症だ。
「……あ……ぅ……」
腕を枕にしていた女が、焦燥感に包まれた顔でこちらに何かを訴える。股を閉じ、両手で股間を押さえていた。
要するに、今まで一回もできなかったんだろうが気遣いで目覚めるのを待ってたんだろうな。
「どうせ使い方なんて知らないだろ」
俺はシャツを剥いで便座に女を座らせた。裾を糞尿まみれにされなんかしたらたまったもんじゃなかったから。
「〜〜っ!! 〜〜っ!!!」
俺は大腸が通っているであろうあたりを指で押すように揉みこんだ。
女はハっとなった顔を紅潮させながら、涙目でこちらを見つめてきた。
羞恥心って、あったんだな。
悪いが言葉が通じない以上、他の方法がわからない。
「あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」
表情が崩れきったところで下っ腹に両親指を押しこんだ。盛大な排泄音が、便所に響いた。
女の顔が、耳の先まで紅潮していた。
「〜〜〜っ!!!!」
俺の胸板を女が小突く。俺は女を便器に押さえこんだ。
いま動くなよ、便所が汚れる。
「……、うぇっ、……うぇっ、……くすん……」
排泄音がおさまると、女はその場で泣き崩れた。罪悪感に苛まれる。
「仕方ないだろ。拭いてやるから立て」
俺は紙を手にとり女を立たせた。いま弄られたくない場所だろうが、放っておくと不衛生だ。
後ろの穴を拭いていると、ぶっと一発屁をこいた。立ち去ろうとする女の腕を、俺は掴んで引き止めた。
「で、拭いた紙は出した場所に捨てて、最後にこのレバーを上げて水を流す。
二度と恥ずかしい思いをしたくなかったら、次からは自分でやれ」
俺は便所紙を便器に捨ててレバーを引いた。頼むから、一回で覚えてくれよ。俺もこんな恨めしい顔をされながら手間かけるのは二度とゴメンだ。
「朝飯買ってくる」
普段コンビニで買うものなんて、タバコのカートリッジくらいなもん。
だが、その場に居合わせるにはあまりにもバツが悪すぎた。
「全くの偏見だが、こういうの好きそうだから買ってきた」
約三百円の、カップサイズのいちごケーキ。俺の朝飯はその半額の買い置きしてたレーズンロール。女が泣き腫らした顔で振り向いた。
「タベテイイ?」
女はシャツのなかに膝まで入れて、部屋のカドに背中を向けて寄りかかっていた。
「条件として、どうか機嫌を直してくれ」
俺は付属のスプーンで掬ったいちごを差し出した。最初から意味が伝わると思っていない。ただ言葉に出したいだけだった。
「イイニオイダロ!」
お気に召したようで何よりだ。女にカップを手渡すと、一気にがつがつかきこんだ。
朝飯を済ませ、俺は洗濯を開始した。洗濯機のなかは肌着と作業着とバスタオルだけ、適当に洗剤入れてスイッチを押すだけの簡単なお仕事……が、いつもの洗濯だった。
「これは手洗いじゃないとダメだろうな」
手には皮かシルクかよくわからない素材の装飾のついたボンテージビキニ。
当然洗いかたとかが書いてあるタグのような便利なモノは付いていない。
俺は洗面器に洗剤とぬるま湯を入れ、手間だが手で揉んで洗った。
「あ〜〜? あ〜〜」
んだよ、洗ってやってるんだよ。いつまでもノーパンにシャツ一枚ってわけにはいかないだろ。
汚れで湯が真っ黒になったところで湯を入れ替え、軽く揉んで、まだ湯が黒ずむようなら洗剤も入れて洗い直す。俺はそれを何度も繰り返した。
「あ〜〜〜」
待て、まだ持っていくな。全然乾いていないだろ。俺はバスタオルで表面の水気を取って、熱を持ち過ぎないように慎重にドライヤーで乾かした。
「タベテイイ!」
そうだ、もう着ても大丈夫だ。しかし女が肌着を着ける姿って、目のやり場に困るよな。
ブラのカップに乳房を入れこむ、パンツのなかに具を仕舞いこむ。男には必要のない動作が女であることを意識させる。
「オネェチャンイイオッパイダナ!」
視線に気付いていたようだった。胸のふくらみを見せつけるように両手でばいんばいんと強調してきた。
この女の羞恥心の基準がいまいちわからない。
しかし、いい加減言葉の通じない会話に疲れてきた。なんとかどうにか最低限の会話だけでも覚えてもらおう。
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