ナイスバディな面倒事に出くわした

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「どうか大人しくしてくれていますように」  さて、今週も頑張るぞ。 「結構キツいぞこれ」  出勤まえにエナジードリンク、中休みでももう一本。そうしなければ、終業まで集中力を保ちきる自信がなかった。 「お疲れ様でした〜」  時刻は午前8時。朝礼を終えた日勤にバトンタッチし俺の今日の仕事は終わり。 「お疲れ。何があったか知らないが、しっかり休んどけよ」  出さないように気を張っていたつもりだったが、周囲に疲れを見られてしまっていたらしい。  どうせ俺はライン工だ、世の中換えなんていくらでも居る。 「だが、だからこそしがみつくんだ。どうせそれしか出来ないなかで、それすら出来なくなったらどうする」  コンビニでタバコとアイスコーヒーを買い煙をコーヒーでノドに流しこんで重いまぶたをこじ開けてからの帰り道、俺は危機感で自らを鼓舞した。 「ハジメ! イナカッタ!」 「仕事だよ。あと、帰ってきたひとを出迎えるときはお帰りなさいだろ」  なんとか無事故で帰宅できたが、俺を疲れさせた面倒事が出迎える。猛烈な吐き気がこみ上げる。  俺はトイレに駆けこんで、中身のほとんど入っていない胃のなかのモノをすべて便器に吐き出した。 「ハジメ?」  セリアが心配そうな顔でこちらの顔を覗きこむ。 「大丈夫。でもちょっと疲れた」  俺は口元を便所紙で拭き水に流し、作業着を洗濯機に脱ぎ捨ててベッドに向かった。  疲れてるんだ、大丈夫だからそんな顔をしないでくれ。 「ハジメェ……」  そっか、プレステの電源の入れかたはまだ教えてなかったな。俺はプレステに電源を入れ、アマゾンプライムのアプリを起動した。 「チガウ……、チガウ……」  セリアが目から涙を流しながら首を横に振る。 「何が違うんだよ!」  俺は思わず立ち上がり怒鳴った。一瞬怯んだ顔をしたが、俺はベッドに押し倒された。  俺の身体は、ふた回りほど小柄な女に一切抵抗できなかった。 「ハジメ、オツカレ」  お願いだ、疲れてないから休ませろ。セリアは電灯のスイッチを切った。眠気で身体が石のように重くなる。  やめてくれ。眠くないから休ませてくれ。 「ハジメ」  セリアがこちらを睨みつける。両眼とタトゥーが妖しく光る。全身がいうことを聞かなくなる。  俺は眠気に抗いきれず、そのまま泥のように眠りについた。 「ハジメ! イキテル!」  目を覚ますともう陽が傾いていた。セリアが嬉々とした顔をしていた。 「イキテル〜、イキテル〜」  セリアの手が生理現象で盛り上がった場所を撫で回す。セリアの腹から腹の虫の音が鳴り響く。 「それ、食べ物じゃないから」  セリアが頬を赤らめながら膨らます。俺はレジ袋からパンを取り出した。 「勝手に食べててよかったのに」 「ハジメ、オキナイ」  寝てただけだろ。一丁前に、心配なんかしてんじゃないぞ。 「ハジメ、トショカン」  俺は時計を見た。 「無理」 「トショカン」  表情を変えずこちらを睨む。もういい、現実を見せつけて諦めさせよう。  俺はセリアを連れて図書館へと向かった。  日が沈み、薄暗いなか夕陽が差しこむ夏の日没。図書館には、閉館の二文字が書かれた札が立っていた。 「な? 無理だろ?」 「ムリ?」 「今日はもう駄目だってことだ」  俺は両手でバツを作った。 「ハジメ、ケチ。トショカン、ケチ」  セリアの顔がふてくされた。 「ケチだ。あまり駄々をこねると、明日も本を読めないかもな」 「う〜」  ようやっと諦めてくれたようだった。俺はスーパーに寄ってから帰宅した。  晩飯を済ませ風呂に入り、俺は出勤の準備を始めた。 「ハジメ、シゴト?」 「仕事だ」  セリアが寝かせても寝つかなかった。余計な手間をかけさせるなよ。 「シヌヨ」 「今日は大丈夫だ」 「ハジメ、シゴトイッタ。セリア、トショカンイケナカッタ」 「さっき食べたスパゲッティも、そしてこの家も世の中は誰かの仕事でできてるんだ。俺にも仕事があるんだよ」  なにかのCMでもそんなこと言ってたっけ。正直もっとラクな生きかたはあるんだけど、俺なりに社会は支えたい。  あとこいつが居るから、働く理由が増えたんだよな。  こいつは市民権を得られそうにない。もし追い出せば、こいつは野良猫同然だろう。 「?」 「まだ難しいか。ひとことで言えば、いい子にしてろ」 「イイコ?」 「そうだ。帰るまで待っててくれればご褒美やるから」 「ゴホービ?」 「ああ。いいものだ。今日はいい子で待ってろ」  このまえ買ったケーキでいいだろ。金かかるな。 「行ってきます」 「イッテラッシャイ」
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