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プレミアムチケット
「あれが久保……か」俺の席は教室の窓側、一番後ろの席。久保の席はちょうど真ん中の辺り、彼女を囲んで数人の女子達が歓談している。ケラケラと笑う笑顔が可愛らしい。
「どこが君原の彼女の次なんだ……?」少なくとも鼻は上に向いていない。
「ちょっとちょっと……、霞原が久保さんの事を見てない?」何やら彼女の周りの女子達が俺の方を見てヒソヒソ話をしている。どうやら、彼女の事を見過ぎたようだった。俺は咳払いをして誤魔化し席を立った。
「霞原!」郷田先輩と鉢合わせになる。
「押忍!」俺は十字を切る。
「学校ではそれやらなくていいぞ……、周りから変な目で見られるし」先輩は嗜めてきた。
「押忍……、いや、すいません。気をつけます」
「ところで何をしてるんだ?そろそろ授業が始まるぞ」先輩が時計を確認する。
「ちょっとトイレに……」
「そうか……」
「ところで先輩は?」
「あっ、そうだ。今度の日曜日なんだが、Z-1の観戦チケットが手に入ったんだが、一緒にどうだ?」先輩はポケットから入場券を取り出して見せた。
「えっ、それって激レアじゃないんですか?いいんですか!?」Z-1とは、あらゆる格闘技の選手が頂点を目指して参加する異種格闘技の大会である。レベルの高いのも評判だが、その演出にも定評がある。そのプレミアムチケットには数百万円の値段になることもザラではないらしい。
「ああ、もちろんだ」先輩は、用件を告げると手を上げて自分の教室へ帰って行った。
テンションが騰がったところで、チャイムが鳴った。俺は慌ててトイレに駆け込んだのだった。
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