禁断のうさ吸い

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禁断のうさ吸い

 短い手繋ぎデートの末に、たどり着いたテントは、人目につかない一番奥にあった。  あたりに並んでいる中でも一番に大きいんじゃないかと思うような、広くて立派な、もはや住居だ。  ソファは広いし、外のウッドデッキの隅にミニシンクはあるし、本当にこれはキャンプなのか……という何度目か分からない突っ込みが脳みそに浮かんで仕方ないけど、二人きりになれる空間は素直に嬉しい。  テントの入り口を閉めている南京錠を鍵で開けて中を覗き、俊と二人でわーっと子供のようにはしゃいだ声を上げてしまった。  いや、写真では見たことあるけど、やっぱり実物で広いテントの中にベッドや椅子が置いてあったら、なかなか感動する。  照明もやたらお洒落だし、台の上にティーセットまで置いてあって、テントなのに、なんなんだこの秘密基地……!  思わず俊の顔を見たら、珍しく嬉しそうに微笑んでるし、その太いしっぽがズボンからはみ出てバサバサ振られてるしで、すごく心臓に来た。  可愛い……。  きゅんとなりながら、とりあえず靴を脱いで中に入る。  天井は高いし、ふかふかのラグやペルシャ絨毯が敷かれてて足元あったかいし、中もすこぶる快適だ。  そして中央奥に二つぴったりくっついて並んだベッドが目に入り……体が固まった。 「……どうしよっか。バーベキューセット的なものが来るっぽいけど、触るのは飯食ってからにする……?」  なんだこの『風呂にする? 飯にする? それとも私?』感……。 「夕飯食べましょう。腹減ってると陸斗さんが危ないので……」  俊が外に置かれたバーベキューコンロを振り返る。  危ないって自覚があったのか……とゾクリとしつつ、なぜかちょっと残念な気持ちで俺は頷いた。  □ □ □    運ばれてきたバーベキューの材料は、迫力の分厚いステーキ、自家製ソーセージ、ジャーサラダ、焼き野菜各種にバゲット。  それにでかいラムチョップまで追加。  もちろんバーベキュー奉行は俊だ。  車で帰らなくて済むので、ワインも追加で頼み、もうやりたい放題。  しかも、更にこういう所ではもはやお決まりな、マシュマロとクラッカーまでついて来て、ほどほどに焼いて挟んで食べ……。  俺はもう年齢的にアレだし、もともと肉はそんなに食べないから、最後の方は胃がギブアップ状態だった。  こんなに食わされるなんて、聞いてねぇ……。  お腹いっぱいで食事も終えて、シャワーも外にある独立したシャワー棟で浴びて。  着替えはさすがに無いので、テントに戻ってから服を全部脱ぎ、毛がつかないようベッドにバスタオルを敷いて、その上でさっさとうさぎに変身した。  天然の毛皮に包まれて寝た方があったかいし衛生的だし、快適だからな。  あとは俊がシャワーから帰ってくるのを待つだけだ。  暖房完備のテントの中、ふかふかのベッドの上で後ろ足を投げ出し、ぼんやりと俊のことを考える。  恋愛的にも俊のこと、ちゃんと好きだって……昼間ちょっと誤解されてたし、ちゃんと伝えないとな……。  なんて考えていたら、例によってまた目は開けたまんま、ウトウト寝落ちそうになっていた。  俊がテントの中に入ってきたジッパー音で、ハッと目が覚める。 「……? 陸斗さん……?」  ランプの明かりの下、高価なシモンズのベッドを軋ませて、俊がすぐそばまで来た。  おかえりーと言わんばかりに、俺はすぐに彼の膝の上に飛び乗る。  落ちないように優しくお尻を抱えるスタイルで抱っこされ、長い指に頭からお尻までの毛を丁寧に撫でられた。  すごく幸せだ。  心地よくてとろけそうで、でも、なんだか落ち着かない。  無人島で撫でられた時と違う……甘くふわふわした感じが、触られた所から生まれるというか。  特に尻尾の付け根を撫でられると、ぞわっと毛が逆立って、お尻のあたりがムズムズする。  なんか、俺、……ヘン……。  お腹から何か、出てきそう……。  鼓動が速くなって、堪えきれずに小さな鳴き声をぷうと漏らすと、俊が俺の身体を両手で包み込んだまま、首を傾げた。 「……陸斗さん? 発情してます……?」  わーっ!!  信じられねえ、撫でられただけなのに俺は……っ!  恥ずかしさが爆発して、俊の腕の中から逃げ出して床に飛び降り、暗いベッドの下の空間に飛び込んだ。  死にそうに恥ずかしくて、耳を後ろに倒してブルブル震える。  ……俺、年もいってるし、エッチなことも人並みに……いや結構好きなつもりだけど、正直実体験はあまりない。  事務所の先輩に芸能人御用達の風俗の店を紹介して貰って、若い頃に何度か付き合いでは、そういう所にも行ったけど、あとは他人に際どい所を触られた経験なんて、実はほとんど無くて。  正直、最近は年単位で自分の右手だけが恋人だったって感じだ。  だからといって、まさか尻触られただけでこんなことになるとは……。  無人島でナデナデされた時はこんなじゃなかったのに。  何しろ、うさぎの雄は発情すると結構な臭いがする……。  俺は半分人間だから獣の兎みたいな悪臭じゃないが、そんなにいいものじゃないと思う、多分。  そして俊は、人間より格段に鼻がいい訳で。  ただ撫でられただけなのに発情してる、って知られたのも恥ずかしいし、そのせいで出た匂いを嗅がれたのも居た堪れない。  消えたい……。 「……陸斗さん、どうして逃げるんですか。触らせてくれるって言いましたよね」  切なそうに呼ばれたけど、俺、今……勃起してちんちん出ちゃってるし……。  臭いわ、ちんちん出てるわ、こんな生々しいうさぎは絶対、お触り禁止だと思う。  なるべく気配を消してやり過ごしてると、ベッドの下に手が入ってきて、無理矢理身体をさらわれた。  そのまま足が宙ぶらりんの状態で持ち上げられて、ランプのゆれる灯に照らされながら俊と対面する。 「……甘くて凄くいい匂いがする」  うう、嘘だー。うさぎフェチにもほどがある‼︎ 「……陸斗さん、俺に撫でられて発情したんですか?」  恐る恐る見上げると、金色の目を異常に輝かせた俊が、ひっくり返した俺のお腹のあたりに顔を突っ込んで、クンクンし始めた。  俺が純粋な獣のうさぎだったら即、大抵抗して逃げ出すであろう、お腹からうさ吸いだ。  俊の褐色の三角の耳が後ろに倒れてひくひくしている。  鼻を擦り付けるみたいにして長いことしつこく吸われて、ドキドキソワソワが止まらない。  やがて、濡れたものがぞわりと俺の腹毛をくすぐった。  うさ吸いがエスカレートして、うさ舐め⁉︎  いや、それは流石に犯罪では……!?  動物お触りコーナーでやることじゃあないよな!?  ハッとして見ると、俊の瞳が人間ぽさを失って獰猛につり上がり、ズボンの腰のあたりからはフサフサのぶっとい尻尾が飛び出していた。  ――獣に、なりかかってる……。  俊、ストップストップ! と言おうとするんだけど、当然ながら声が出なかった。  うさぎの俺、無力すぎる。  そうこうしてる間に、触れる舌はさっきより薄く長くなり、動きが少しずつ大胆になっていた。  柔らかい舌が俺の無防備な腹から、匂いを放ってるお尻の辺りまで、無遠慮に舐め回す。  当然それは、うさぎの俺のちっちゃいペニスや、その横にタラコみたいに膨らんでるピンクの睾丸にも当たって。  俊を止めなきゃと、たまらず俺は裸の人間の姿に戻った。  ぼふんとシーツの上に尻餅をつく。  まだついたまんまの丸い尻尾を隠す余裕もなく、俊の頭をギュッと抱きかかえた。 「まっ、待って、もうおしまい……っ」  ところが俺が人間に戻ってもまるで気づいてないみたいに、俊はだらりと垂らした長い舌で俺のヘソの下を舐め上げてきた。  ちょっ、その綺麗な顔のすぐ下で、俺のアレがドキドキ脈打ちながら大変な事態になってるんだけど……!?  しかも俊の唇は俺の褐色の陰毛をかき分け、生え癖に逆らいながらそこの匂いまで嗅ぎ始めた。  これは絶対ヤバい。  だって、推しのご尊顔にっ、俺の汚いちんぽが擦れてる事案がっ! 「俊っ、それは汚れるからぁっ……!」  堪らず腰を引いて後退り、俊に丸出しの尻と尻尾を向けて土下座スタイルで丸くなった。  本当は面と向かって土下座したい所だけど、申し訳なくて顔が合わせられない。 「本当にごめん……ちょっと収まるまで待ってくれ……」  後ろを向いたまま情けなくうめく。 「……待てる、わけないだろう……こんな可愛くて……美味そうなうさぎ……」  ぐわしと尻尾を掴まれた感触と共に、聞いたことないような、背筋がゾワっとするほど低い声が忍び寄った。
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