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3,たった一度きりのステージへ
それから毎日のように、私は配信とフェスの準備に打ち込んだ。
最後の最後まで、ありがとうと伝えたくて、楽しい気持ちのままお別れしたくて、私は平静を装って明るく配信を続けた。
刻一刻と終わりの日が近づいてくる。
忙しければ忙しいほど、もう最後なんだって、そのことを少しでも忘れることが出来た。
毎朝、日めくりカレンダーをめくっていくたび、心が抉られるような感触を覚えた。
後何日って、確かめながら過ごす毎日は、私の存在意義そのものだった。
――――そして、フェス当日。
「ねぇ、お姉ちゃん、いつ出るかなー?」
真奈はテレビの前で、もう待ちきれない様子だった。
「今日の昼の部って聞いてたから、もうすぐなんじゃないか?」
二日間構成のフェスの今日が二日目、夜の部が16時からになっていて、昼の部が10時から14時までとなっている。
唯花が二日目の昼の部に登場することは事前に公開されているが、昼の部のどこで登場するかは公開されていない、そのため昼の部が始まる時間にみんなで集まって唯花のことを見守ることになったのだった。
隣近所の樋坂家の浩二と真奈は永弥音家に集まって一緒にテレビのモニターの前で待機した。
そこには唯花の両親や幼馴染の内藤達也、そして一人で応援するのが心細かったのか舞の姿もあった。
みんな唯花のこれまでの活動を知っているメンバーでの会話は、それだけで大いに盛り上がった。
学内でも知っている人の限られた、ここにいる人だけの秘密。
唯花のもう一つの顔は、ここにいるメンバーにとって華々しい姿であり、応援の対象だった。
まるでパーティーのように並べられた昼食の料理や、その後も楽しめるように置かれたお菓子やジュース、それは唯花の出番を今か今かと待つ心の表われであった。
「先輩の出番、待ち遠しいです! これが最初で最後なんだから、しっかり応援してあげませんとね!」
そういった、舞は手に持ったメガホンで乱暴にはしゃいでいた。
「何で音楽のライブにメガホンで応援なんだよ……」
「えっ? これが普通ではない……? 自由かつ活発的なフリースタイルの流儀はこれだと耳にしましたよ?」
「初耳だよ……」
「じゃあ、マナはカスタネットで応援する~~!!」
真奈も舞に習ってか独自の応援スタイルを開発していた。
「二人はノリがいいね~。そういうところ、僕らも見習った方がいいのだろうね? 浩二」
「まるで統一感がないけど、まぁ楽しけりゃいいのかな、こういう時だし」
今日という日は二度とない、そういう当たり前の感傷の中で、浩二や達也も唯花の出番を待った。
天井から吊るされた大きく薄いモニター、その場にいる人の視線を一斉に浴びる中、唯花の出番がやってきた。
立体的なバーチャルリアリティーの最新の設備が、これまで過ごしてきた唯花のアバターを美しく照らし出し、音楽が鳴り響く。
ライブ会場にいる観客の大きな歓声の声が、待ちわびたこの時の瞬間をより一層臨場感のある形で強く感じさせた。
「お姉ちゃんだーーーー!!!」
「せんぱーーーーーい!!!!!!!」
真奈と舞が人一倍大きな声を出して、高まる興奮をいっぱいに吐き出している。
「誇らしくもあり、遠くもあり、近くもある、唯花は今、あの場にいるんだろうな」
「あぁ、きっと今までで一番の幸せな笑顔で、あの場に立っているよ」
ただ一度の大きな舞台、これまでの活動の集大成というべきライブ、その姿を浩二も達也も見守る。
モニターの前で座る4人の後ろでは、ダイニングテーブルに座って、感極まった表情で見つめる両親の姿があった。唯花の両親は手を繋いで、我が子の成長した姿を、頑張り生き抜いてきたその姿をその目に焼き付けた。
*
唯花のオリジナルソングが終わり、舞はすでにいっぱいの涙を目に浮かばせて、画面を見つめていた。
唯花の歌が大好きな真奈は満足げに浩二に抱きついてその腕を離すことなく、画面に映る唯花を見つめている。
歌い終わり、中央に一人立つ唯花の元に、一際大きな花束を抱えて二人の司会者が寄り添う。
司会者が大きな声で「卒業おめでとうございます!」と言葉にして手に持った花束を手渡したとき、その瞬間、まるでバーチャルとリアルの境目がなくなったかのように、確かにこの光景を見るすべての人の気持ちがリンクしたような感覚を覚えた。
そう、この瞬間だけ、見る者には確かに同じ実像がイメージできた。
「ありがとうございます」
思わぬサプライズに何度もお辞儀をしながら唯花はその花束を受け取って、止めどなく涙を流した。
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