恋花火

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 その時、響哉はぎゅっと私の右手を握ってくれた。  暗い夜空には大輪の花火がパッと咲いては散った。  その光景も響哉の汗ばんだ掌の熱も私は忘れない。  その時の響哉の言葉通り、私達は中学に上がり、高校生になってからも、約束通り二人で毎年一緒に花火を見に行った。  高校卒業後、響哉は東京のIT企業に就職し、郷里を離れた。私は地元に残って県庁で働いている。  でも、地元の夏祭りの花火大会が開催されるお盆の時期に必ず響哉は帰ってくる。  そして、二人で夏祭りに行き、花火を見る。  それは、ずっと続いている私と響哉の約束。 「晩飯、今年も屋台でいいの?」 「勿論! 夏祭りの醍醐味はなんたって屋台の食べ歩きでしょ」 「果帆は昔からほんと屋台好きだよなあ」 「屋台の味は特別よ」 「屋台って不衛生だし、ぼったくりじゃん」 「そんな野暮なこと言わないの。それに、響哉だって屋台好きでしょ」 「まあな。屋台で食べる食べ物って何かしら美味いよな」  私達は手を繋ぐことはしないのに、会話のキャッチボールだけは滑らかで。  そんな私達は、周りにはどう映っているだろう。
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