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「果帆はやっぱ色気より食い気だな。太るぞ」
「ひどい!」
そんな他愛ない会話を交わしながら、烏龍茶のペットボトルと缶ビールで乾杯した。
熱々の広島焼きに舌鼓を打つ。たこ焼きは少し冷めていたけれど、私は青のりも気にせずに爪楊枝でひょいと口に頬張った。
ああ。
今年の夏もまたこうやって響哉の隣に座って、屋台のたこ焼きを半分こ。
その何気ないありふれた光景に、私はそこはかとない幸せを感じる。
中三の時、両親が離婚した響哉の実家の事情は複雑で、響哉は逃げるように東京に出て行ってから、ほとんど実家には寄りつかない。お正月すら帰ってこない。
響哉に逢えるのは、十二の歳に約束したこの夏祭りの夜だけ……。
屋台を出た後、人混みの中、花火会場へと向かい花火が始まるのを待った。
蒸し蒸しした温い空気が首筋にまとわりつく。
お囃子の笛太鼓の音が遠くから聞こえてくる。
屋台での饒舌さが嘘のように、響哉は黙って私の隣に立っている。
その時。
ドーン……!!
大きな音がして、私は空を仰いだ。
夜空には大きな紫色の打ち上げ花火が上がった。
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