恋花火

5/8
前へ
/8ページ
次へ
「果帆はやっぱ色気より食い気だな。太るぞ」 「ひどい!」  そんな他愛ない会話を交わしながら、烏龍茶のペットボトルと缶ビールで乾杯した。  熱々の広島焼きに舌鼓を打つ。たこ焼きは少し冷めていたけれど、私は青のりも気にせずに爪楊枝でひょいと口に頬張った。  ああ。  今年の夏もまたこうやって響哉の隣に座って、屋台のたこ焼きを半分こ。  その何気ないありふれた光景に、私はそこはかとない幸せを感じる。  中三の時、両親が離婚した響哉の実家の事情は複雑で、響哉は逃げるように東京に出て行ってから、ほとんど実家には寄りつかない。お正月すら帰ってこない。  響哉に逢えるのは、十二の歳に約束したこの夏祭りの夜だけ……。  屋台を出た後、人混みの中、花火会場へと向かい花火が始まるのを待った。  蒸し蒸しした温い空気が首筋にまとわりつく。  お囃子の笛太鼓の音が遠くから聞こえてくる。  屋台での饒舌さが嘘のように、響哉は黙って私の隣に立っている。  その時。  ドーン……!!  大きな音がして、私は空を仰いだ。  夜空には大きな紫色の打ち上げ花火が上がった。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加