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「俺、結婚するんだ」
響哉は言った。
「もうこっちには帰ってこない。来年の夏、俺はここにはいない」
響哉はそう言うと、再びまっすぐと空を見上げた。
その瞳はもはや私を見つめてはいなかった。
響哉が私から離れていく。
私はきゅっと唇を噛んだ。
響哉が好き。
響哉が好き。
言葉にならない叫びを心の中で呟きながら、私は胸に当てた手をぎゅっと握る。
それは幼かったあの日、響哉が握ってくれた掌。
もう決して触れてはもらえない掌、髪の毛、唇。
いつだって私達は臆病だった。
離れていることを言い訳に、積極的な接触を避けてきた。
でも私は、響哉に逢いたかった。
毎日でも、毎晩でも、逢いたくて逢いたくて。
一瞬も離れたくないと心はうわずるのに、それを伝える術を知らなかった。
ドーン……! ドーン……!!
空には変わらず、次から次へと花火が三つ、四つと咲いては散っていく。
行かないで。
私の側にいて……。
最後の花火が夜空に消えるまでは。
あなたの隣で花火を見上げさせて。
あなたの心に私を綺麗に咲かせて。
この恋の炎が切なさに消えるまで。
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