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カラン コロン……
電車を降り下駄の音を響かせながら、地上階へと続くエスカレーターへと急ぐ。
年に一度だけ袖を通す浴衣の着付けに今年もまた思いのほか時間がかかってしまった。
今年の浴衣は三年ぶりに仕立てたもので、殊に肌に馴染まない。しかし、白地に赤い椿の柄の糊のきいたそれを黄色の帯と赤い帯留めで締め、黒い籠バッグを持って待ち合わせ場所へと向かう心は浮き立つ。
地下のホームから駅の中央改札口へ出ると途端にムッとした熱気を感じた。
今夜も湿度が高く、熱帯夜の予報だ。
キョロキョロと辺りを伺っていると
「果帆(かほ)」
背後から声をかけられた。
「響哉(きょうや)」
そこには一年ぶりに会う懐かしい彼が立っていた。
そう一年ぶり。
一年ぶりだけど……。
「何、まじまじ見てんの」
「だ、だって、響哉。浴衣初めてじゃない。どういう風の吹き回し?」
「別に。まあ毎年、果帆は浴衣だし。俺も一度着てみっかなあと」
そう言って顔を背け、斜め上方に視線を遣る響哉。
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