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 道の半分ほどやってきたころだろうか。左側の暗闇にちらりと赤いものが見えた。よく目を凝らしながら歩を進める。どんどん大きく鮮明になっていくそれに息を飲んだ。心臓の鼓動がどくどくと一気に加速しはじめる。血管が膨張して、体を巡回する血液量がどっと増えた。 「大樹!」  そこからはもうなりふり構わずに走った。ひざ丈にまで伸びた草をかき分け、地面から大きくうねりあがった根を飛び越えた。燃え盛る火のように闇に浮かぶ赤い球体に向かって闇雲に進む。やすりのように尖った鋭い葉が何度も皮膚を切った。かき分ける手の皮膚がぱっくりと口を開いた。根に足を引っかける。こけつまろびつしながらもひるまなかった。じんじんとした痛みが絶え間なく襲う。赤いものがはっきりと輪郭を帯びてくる。それはもう、ほんの目の前にある。  ようやく目標のものへとたどり着いたとき、錯覚であってほしいという祈りにも似たかすかな希望は粉々に砕け散った。赤く光っていたものはやはりりんご飴だった。大人のこぶし大ほどの大きなりんご飴。ぬらぬらと照り輝く飴がりんごの表面を覆っている。遠くから見るとりんごは鮮やかな赤色だったのに、こうして間近でしっかり見てみると黒々としている。白雪姫が食べた毒りんごみたいだと形容するのがぴたりと当てはまる。それが灯りとなって闇の中に弟の姿を浮かびあがらせた。  弟はずいぶんひどい有様だった。まぶたやほほは腫れあがり、充血して赤くなっていた。真っ白だった靴下はじっとりと濡れて茶色く汚れている。体中、細かな傷が幾重も走り、そこから血がにじみ出て、洋服にも転々とあとを残している。  弟は両手を広げたくらいの太い木の根元に足を投げ出した状態で座り込んでいる。胸に顔を近づけて耳をそばだてる。どっくん、どっくんという規則正しい鼓動の音が聞こえる。どうやら意識を失っているだけらしい。おもわずほうっと安堵の息が漏れた。  それにしてもこんな状況にもかかわらず、彼はぎゅうっとりんご飴の串を握りしめている。こんなところまで追いやられてもなお、彼は飴を捨てきれずにいたのだろうか。とはいえ、飴のおかげで見つけることができたことを考えると、なんとも皮肉な話である。 「大樹」 名前を呼びながら揺さぶる。けれど弟は目を覚まさない。試しに彼の指をこじ開けてみる。 「なにこれ……」 予想以上に強い力で握っているため、弟の指がびくともしない。これが小学四年生の男の子の力なのかと恐ろしくなるほどだ。あの三人の少年たちがあきらめざるをえなかった理由がようやく理解できた。 「どうしよう……」  弟が起きないかぎり飴は捨てられない。かといって、このまま弟を放置して、自分だけ引き返すこともできない。いつなんどき、あめごいさんが下りてくるとも限らないからだ。こんなところには一秒だっていたくない。  しかし足をくじいた自分では弟を背負って広場まで戻ることもむずかしい。無理をしたせいなのか、くじいた足が今になって強烈に痛くなっている。ひねったときよりも確実に悪化している。弟を起こすほかない。とにかく気づくまで声を掛けよう――そのときだった。 ――あめをくれ。
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