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何でも屋事務所
ネオン街の通りから、一つ奥の、筋に入った雑居ビルの2階。扉には、八代企画と書かれたプレートが貼られてある。
八代は、背負って来た男を、ソファーに放り投げた。
「見張ってろ、俺は、隣で休む」
「承知しました」
八代が、ダミー事務所として使っている、この八代企画が、俺の住みかだ。
事務所に、一つしかない部屋の扉を開け、俺は、シングルベッドに寝転んだ。
あいつは、何者だ?何で、俺の名前を知ってるんだ?
「おいっ!何だよ!これ!!」
男の騒ぎ声で、俺は目が覚めた。
壁の時計を見ると朝の5時だった。
「静かにしろ、ブチ殺されたいのか?」
八代の声が聞こえてくる。
起き上がり、俺は、扉を開いた。
「お前ら、静かに……」
男は、丸椅子に座らされ、両手、両足をガムテープで縛られ、八代に拳銃を向けられていた。
「八代!見張れとは言ったが、そこまでやれとは言ってないだろう!銃を仕舞え!」
「しかし、龍様」
「八代!イケオジも、言ってんだろ!んなもん向けるな!」
男の叫びに、八代の目が光る。
ガタンッ、ドシンという音の後には、八代が入れた容赦ない蹴りで、事務所の扉に椅子ごとぶつかり、身悶える男の姿があった。
八代は、銃をしまうと、スマホを取り出し、検索を始めた。画面には、イケオジの検索結果が並んでいる。
俺が、ふと目をやったテーブルの上、麻雀雑誌や競馬新聞が、雑多と置かれている中に、札束が置かれてあった。
「あ!俺の全財産っ!!」
痛みに顔を歪めながら、男が叫んだ。
「身体検査をさせて貰った」
八代は、スマホ片手に男を見下ろしている。
「全財産か。お前、行くとこねぇーんだな?」
男は、図星だったようで、転がったまま、押し黙った。
コイツは、ただの半端な野郎だ。
「どうだ、これも何かの縁だ。俺と、組まねぇか?酔っ払って、お前が叫んでた、何とかって言う奴を探せばいいんだろ?こうみえて、俺は、何でも屋をやってる」
男が、はっとした顔を俺に向けた。
「なぁ!片平龍之介って奴を探してくれよ!」
「じゃあ、この金は此処に住む、敷金礼金、初月家賃、そして、依頼金ということで」
俺は、札束を懐に仕舞った。
100万か。悪くねぇ。
「ちょっ!イケオジ!あんた、顔に似合わず、がめつくねぇーか!!」
「まあ、そう言うな。お前は、住みかが見つかり、人探しもして貰える。俺は、見返りとして金を貰う。ビジネス成立だ。八代、自由にしてやれ」
「ですが!」
「早くしろ」
八代は、明らかに嫌そうな顔をしつつも、男を自由にしてやる。
「と言うことで、俺は、リュウだ。宜しくな、虎」
「虎?」
俺は男の左手の刺青を指差した。
「おお、俺は、虎だ!宜しく。ついでに、八代のおっさんも」
「イケオジと、呼べ!」
八代の、蹴りが飛んだ。
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