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ビビアン
虎と八代は、まだ、小競り合いを続けている。
そこへ、事務所の、扉がバンと勢い良く開き、「シャチョッサーン!!」と、妙な日本語を喋る、派手な女が飛び込んで来た。
「恵子、どうした、仕事帰りか?」
「リュウサーン、アタシ、チガウヨ!ビビアン、ダヨ」
胸元がざっくり開いた、ボディコンワンピに、折れそうな激細ピンヒール姿の女が、づかづかと事務所に入り込んで来た。
「リュウさん、もう無理!!」
ビビアンこと恵子と俺が出会ったのは、こいつが、10代の新人ホステスの頃だった。
浅黒い肌のせいで、客がつかないと焦っていた。世の中、色白がもてはやされていたからだ。
いっそ、フィリピン人ってことで行けば?と、酔っ払った勢いで、恵子に勧めた所、俺の言葉を真に受け、ビビアンと名乗り、フィリピン人として勤め始めた。
何が当たるか分からねぇ。恵子は、ビビアンとして、ここらじゃ有名なフィリピン人パブを、経営するまでになった。
「あたしが、日本人じゃないかって、絡んでくる客が増えて、もう、耐えられない!」
「近ごろの客は、洒落ってもんが、通じねぇからなぁ」
「店の子達も、日本人の癖にって、言うこと聞かないの」
「お前が、ママなのにか?」
「ビビアンさん、店の女の、パスポート、取り上げますよ?」
「八代、こじれるようなこと言うな」
俺達の会話に虎が割って入ってきた。
「結局、なんっすか?」
「え?誰?」
「虎だ。俺の助手」
虎は、頭を下げた。
その姿に、恵子は、釘付けになった。
「俺、不味いこと言いました?」
虎は、俺に不安げな顔を向けてくる。一方、恵子は、目をキラキラさせていた。
「そうよ!あたしは、ビビアンなのよぉ!」
「そうだけどよ。ビビアンってのは……」
「リュウさん!あたしが、甘かったわ!水商売の世界で生きていくには、もっと、腹据えなきゃいけないのよっ!」
恵子、何考えてんだ?
「リュウさんに、相談して、よかった!」
恵子ことビビアンは、俺に抱きつくと、頬にキスマークを残し、颯爽と八代企画を後にした。
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