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襲撃
「ここエアコンねぇの?!」
銭湯から帰って来た俺達は、首振り扇風機を取り合っていた。
「夏は、暑いもんだ」
「そうだ。龍様は、環境に配慮なさっている」
八代は、早速、環境破壊と、スマホで検索していた。
八代は、スマホに夢中だ。
無理もない。俺の代わりに、長いムショ暮らしを何度も経験したお陰で、世の中の動きに疎くなっている。初めてスマホを見た時は、新型のラジオですか?と、真顔で言った。
あの抗争さえなかったら、警察に、睨まれながらも、静かに暮らせていたかもしれない。俺も八代も。
「なあ、リュウさん」
ふと、昔のことを思いだした俺を、虎が、現実に引き戻す。
「部屋の借り主の俺が、エアコン希望してんだ、さっきの金で何とかしろよ」
「成程な、八代、エアコン付けろ!」
「そうこなくっちゃ!」
虎は、子供のようにはしゃいだ。
「だがよおー、虎、退去する時は、復元しろよ?お前が、勝手にエアコン取り付けたんだ、そん時は、敷金から勿論、差し引くぜ」
「へっ?!なんか立派な事言ってるけど、それ、単なる詐欺だろ!あんた、極悪非道だな!」
「おうよ!そいつは、極悪非道な男よ!」
俺が、虎に返事をする前に、事務所の扉が蹴破られた。
「虎!隣の部屋へ行って、鍵かけろ!」
目出し帽を被った男たちが、鉄パイプを手になだれ込んで来る。
俺と、八代は、ソファーの後ろへ飛び込み、身を伏せた。
男たちは、鉄パイプを振り回し、事務所の物を次々壊して行く。そして、ソファーの後ろの俺と八代に襲いかかって来た。
八代は、蹴りで、俺は、拳で対抗する。
攻防の中、テーブルの上に、置いてあった、八代のスマホが、粉々になった。
「あ……。虎!俺も、そっちへ入れてくれ」
俺の声に、虎は、すぐさま扉を開けると、俺を引っぱりこんで、扉を閉めた。
扉の向こうからは、
「てめぇら!!おれのスマホ、どうしてくれる!韓流ドラマが見れねぇだろ!二人の愛の逃避行の続き、どうすんだっー!」
と、八代の悲痛な叫びと共に、拳銃の破裂音がした。
「リュウさん!」
虎の、叫びと被さるように、うわあー、と、情けない声が聞こえ、その叫びは小さくなっていく。
「尻尾巻いて逃げたな」
「やべーだろ!」
虎は、窓を開けると外へ向かって、
「発砲事件だぁーー!あの、目出し帽の男達が犯人だー!」
と、叫んだ。
その声に反応して、人が集まって来る。そして、目出し帽の男達を、取り囲んだ。
「この街は、皆、腹くくって裏道歩んでる奴らばかりだ。騒ぎを起こされ、商売邪魔されるのは、ごめんだってことだろ」
外では、男達が、袋叩きに合っていた。
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