龍と虎

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龍と虎

俺と虎は、狭いテーブルで、本場のカレーを味わっている。 「リュウさんも、左利きか……」 虎は、真顔で俺を見た。 「ん?」 カレーを口に運んでいる俺に、虎が、重い口を開く。 「何で片平龍之介だって、言わなかったんだよ」 俺は、頭を掻いた。 「刺客かと思ってな、お前こそ、何で俺を探してた?」 虎の瞳を見つめ返せば、虎は居心地悪そうに、視線を逸らす。 「ある人が、会ってみたら……分かるって。もう死んじまったけど」 「俺と会って、何か分かったのか?」   「左利きって、ことかな……」     虎は呟くと、俺の視線を再び捉えた。 「大我(たいが)」 「何だ?」 「俺の名前」 「……タイガー、か。それで、虎の刺青……」 何か、深い訳がありそうだ。虎は、それ以上言わなかった。俺も、深追いしなかった。 言いたくなりゃー、言って来るだろう。他人の心へ土足で踏み込むなんぞ、野暮なことはしたくねぇ。 と、事務所の扉が、バーンと、開かれた。 俺達はスプーン片手に身構える。 「リュウさーん!!」 虎もコック達も、飛び込んで来た声の主を凝視した。 「マリリンじゃねーか、どうした?」 「クビになりそうなのぉー!あたしの、脱ぎっぷりの、どこがダメ?リュウさん!ちょっと、見て!」 虎の目が見開かれる。コック達も、身を乗り出した。 スマホから、バッハのG線上のアリアが流れ始める。 「リュウさん!ボンキュッボンの姉ちゃんがっ!それに、曲が!」 虎も、コック達も、目の前で始まった、ストリップショーに、釘付けになっている。 曲の終わりと共にマリリンは、後ろ向きになり、全てを脱いだ。そして、ターンしたとたん、虎と、コック達が、悲鳴をあげた。 「えーー!!ついてるっ!」 「マリリンは、ストリッパーだが、元々男で、肝心なモノが残っててなぁ、色物枠で、人気だったんだけど、そろそろ、限界か……って、おい、お前らっ!」 虎も、コック達も、倒れ込んでいた。 「さすが、マリリンさん!皆、感動のあまり倒れてます!」 八代が、大きな拍手をしながら、入り口に立っている。 「八代ちゃん!ありがと!」 マリリンは全裸のまま、八代に抱き付いた。 「な、なんすかっ、あの二人」 床に転がる虎が口を開く。 「マリリンは八代と、できててなぁ。八代、お前の財力で、マリリンを女にしてやれよ」 八代は、頬を赤らめる。 虎が、叫んだ。  「此処、濃すぎるだろっ!」 「そうか?何でも屋って、こんなモンじゃねぇのか?」  「あっ!そーいえば、リュウさん!コック達、住み込みらしいっす!どーすんです?」 なんだそりゃ、早く言えよ、虎。 「……仕方ねぇ、カレー屋……開くか」 俺は、小さく呟くと、本場のカレーを口にした。
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