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突き抜けるような青い空に真っ白な雲のコントラストが目に眩しい。
緑の葉が生い茂る夏木立から零れる陽射しが、小径の上に濃い陰影を作り上げていた午後。
一陣の風が吹き渡り、夕暮れが近づいてきたことを教えてくれた。
スマートフォンを握り締め、とぼとぼとあてもなく歩いていたSofiaはふと立ち止まり、思い出したようにJyriに電話を掛けてみた。
しかしJyriのスマートフォンは話し中。
例の、職場の可愛い後輩の娘とでも長電話をしているのだろうか。
かれこれ一時間は不通だ。
スマートフォンを持つ手も痺れてくるだろうに……。
そんな妄想を思い浮かべながら、Sofiaは又、あてもなく歩き始めた。
朱に染まる夏の夕べが近づいてくる。
でも、相変わらずJyriのスマートフォンは不通のままだった。
やがてSofiaは去年の夏、Jyriと二人きりで過ごした湖畔のコテージへと辿り着いていた。
陽はもう湖畔の水平線に沈もうとしている。
フィンランド、ラップランドの夜のない夏。
太陽が湖畔の水平線に一瞬だけ沈んでから、再び昇って来る。
薄れゆく昼と夜の境界が曖昧になる一瞬。
織りなす光のコントラストが奏でる、夜なき夜。
それは白い夏の夜。
Sofiaは湖の打ち寄せる小さな波を見つめながら、その場にしゃがみ込んだ。両腕に顔を埋めると、何故か涙が溢れてきた。
少し離れたほうがいいのかな……。
終わりにしたほうがいいのかな……。
こんなに悩んで、こんなに疲れて心が重くなるなら。
中途半端な想いは、まるで今、目の前に広がる白夜のようだ。
沈めきれない想いに曖昧な想い。
想いなき思いに悩む白い夏の夜。
SofiaはJyriがくれたステディリングをそっと右手の薬指から外し、思い切って湖に向けて高く投げ上げてみた。
全てを捨て去るように。
そう……、もう終わりにしようと。
湖面が小さく揺らんだ。
広がる波紋を数えていると、思い出がいくつもいくつも甦ってくるのが分かった。
お互いの気持が通じ合ったあの日。
初めて二人だけで出掛けたあの日。
ぎこちないキスをしたあの日。
初めて口喧嘩をしたあの日。
泣きながら仲直りしたあの日。
そして、コテージで抱き合ったあの日。
ひとつひとつの波紋が色褪せる思い出とともに大きく広がって消えていく。
深く大きな溜息を吐いたその時、スマートフォンの着信音が静寂を破った。
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