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最後に足を運んだのは、近隣でも一番に大きな公園であった。
緑地と呼ばれているこの公園は、かの大型野球場がいくつも入るであろう広さがある。
入った途端、肌寒さを感じる。
道の他は舗装がなく、樹木が生い茂り落ち葉が敷かれるそこは、まわりと比べて気温が数度ばかり低い気がした。
もとより暑がりの性分である。夏とは思えぬ心地よさを肌に感じながら、街灯の光が溜まる夜道を行く。
幾度か来たことはあった。子供向けの遊具がある公園、テントを張れるキャンプゾーン、動物と触れ合える広場などなど、見るべきところは多々ある。
その中で向かったのは、ちょうど真ん中あたりに広がる大きな池である。
池を見渡せる、畔のベンチに腰掛ける。
眼前に遮るものはなく、水上をすべる風が、あちこちからやってきては去ってゆく。
いつしか空は晴れ、満ち月が輝いていた。
そのかわりに星は見えぬ。月明り強さに隠されているのか、あるいは美しさに遠慮しているのかは定かではない。
しばし月光を満喫したのち、水面へと目を落とす。
歪んだ月が揺れている。真ん丸のモチ、潰れた大福、出来損ないの雪だるま。気まぐれにそよぐ風と共に、その形は移りゆく。
変幻自在なるその写し月は、ずっと眺めていても飽きぬ魔力があった。
かの唐の詩人もこんな気持ちだったのだろうか。あいにく舟も酒もないが、それでも手を伸ばして我がものとしたくなる、それはまがい物の月であった。
木々や水から染み出す冷気、それをのせて吹く涼やかな風、天に浮かび地に漂うふたつの月。
これほどの夜があろうか。
ふと傍らを見ると、靄は隣で腰掛けていた。
ぼやりと漂う靄は、月を受ければ淡く光り、風を受けてはふわと揺らめく。
相変わらず何を見聞きしているのかとんとわからぬが、私と同じく、ただこの夜を感じているのかもしれぬ。
戯れに触れてみようかと考え、手を伸ばそうとして、やめる。
恐れ故ではない。私だって、今の夜を邪魔されたくはないからだ。
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