夜、ゆきて

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 随分と長居をしたらしい。  東の空が白んでくると、急に眠気が襲ってきた。  夜明けは目の前というのに、靄はまだ隣にいる。  あくまでも勝手な想像であるが、明るくならぬうちに元の場所へ帰るべきではないのだろうか。  それを言葉にすると、靄はぴくと揺れ、こちらを向いてこくりと頷いた。  無論、そう見えただけである。  人は、あやふやで得体の知れぬものを都合の良いように見る習性があると聞く。  今のも、きっとその類であろう。それでもよいではないか。  ふわりと浮かび上がると、そのままそろりそろりと空を行った。  向かう先はやはり私の家の方角か。去りゆくその背を見送ってから、薄闇となりつつある夜の余韻を楽しんだ。
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