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【終章】冷たい指先~瀧上怜・聡~
いつの間にか根を詰めすぎていたのだろう。
深く息を吐いて、瀧上聡は工房の古びた椅子の上で大きく伸びをした。
次の瞬間、ひやりとしたものが首筋に当てられた。
その気配は、聡が幼いころから馴染んだものだった。
「姉……さん」
「久しぶり、聡。少しやせたみたいじゃない」
「何を……しにきた」
聡は首筋を行き来する怜の爪を振り払った。
「少しは腕を上げたのかしらね」
「姉さん、頼むからこれ以上罪を重ねないでくれ」
怜は楽しげな笑い声を上げた。
「それで山田家に協力を仰いだのね、彼らの力はなかなかのものだけど、ふふ」
「何がおかしい」
「あの人たち、律儀だから。手の届く限り何もかもすくい上げようとするでしょうね。新しい当主を名乗った彼は脅威だけどもう満身創痍。おばあさんはどうしたって寿命が限られてる。女の子はそうね、厄介だけども心が決して強くはない。聡、あなたがしたことは両家を守るつもりであの家を滅ぼすことになるでしょう。楽しみでしょうがないわね」
聡は唇を噛んだ。
「あとね、少しだけ久賀の次男に力を貸したわ。あそこの次期当主もまた化け物だけど、身内に敵が多い。そちらはこれ以上立ち入らなくても内側から崩れるでしょう」
「何だって!?」
「封印されてた彼らの眷属、綺麗な箱に入れてあげただけよ」
お気に入りのおもちゃを見せびらかすように、怜は微笑んでみせた。
「彼らの力、削いであげたわよ。聡。あたしは退屈するの、大嫌いなんだから」
言いたいことだけを言って、怜は姿を消した。
それが本当にあったことなのか、ただの夢なのか。
聡にはどうしてもわからず茫然と立ち尽くすばかりだった。
【完】
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