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心置き場の兄妹~山田登・瑚珠~
「あら登ちゃん、今日も良いお天気ねえ、ちょうど良かったわ」
「ああ、田中さんおはようございます。朝からこんな暑さだから日中は家の中にいて下さいね。買い物があれば俺がついでの時に行ってきますから」
「助かるわあ、そうそう、これ間違ってうちに届いちゃったのよ。山田さんちの荷物。ついでだからあがっていかない?田舎から送ってきた水ようかんがあるのよう」
水ようかんは捨てがたいが隣の田中さんの奥さんは恐ろしく話好きで、田中家の応接間は取調室と呼ばれている。
荷物を受け取ると、登は申し訳なさそうに田中さんの申し出を断った。
「本当にすみません、急ぎの仕事が入っちゃって。また何かあったら誘ってくださいね」
登は大柄で左目に黒い眼帯をつけている。
暑苦しいうえにどこにも馴染まない存在だが、親切で面倒見はいいので高齢化の進む住宅街での評判は悪くない。
山田家が管理している心置き場は、表向きモノにまつわる困りごとを解決する場所、ということになっている。
困りごとを通り越して呪いや霊障の類を封じ込めたりもしているが、いつも何ごともないような様子で多少寂びれた住宅街の中にある。
最近では、モノだけが送りつけられることも珍しくなくなった。
とはいえ、前もって何の連絡もないことはこれまでにはなかったはずだ。
「なになにー、食べ物?」
登の妹の瑚珠はたいそう食い意地が張っていて、食べる量も人間離れしている。
「心置き場宛てだな。絶対食えねぇモノだろうな。んー、コワレモノ?結構厳重だ、よしよし」
「ちょっと待って登ちゃん!それは絶対開けちゃダメ!」
瑚珠が悲鳴を上げて飛び退った。
「は?いや、開けちゃったぞ。これ何だ、ガラスの箱かな。どうした瑚珠?」
「無理。絶対無理。しまって」
「そんなこと言ったって段ボールはボロボロのバラバラだよ。まずいものなら余計にこのままにしておけないだろう?」
瑚珠は頭を抱えてしゃがみこんでいる。
「咲ばあちゃんが帰ってくるまでは手をつけられない……」
何があっても平然としている瑚珠の尋常ではない姿を見て、登は困り果てた。
「ばあちゃんは敬老会の用事で帰りは夕方だって。何かあったら二人で解決するように言われたろう?このまま放っておいてみろよ、でこぴんからの説教三時間コース間違いなしだぞ?」
瑚珠は顔を覆った指の隙間から、ものすごく恨みがましい目つきで登を見た。
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