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「いったい何があるんだ?この箱の中」
「わかんない?すさまじい腐臭と血生臭さだよ?」
「そうかあ?」
登は事もなげに箱をひっくり返しているが、瑚珠はまだ近づくことができずにいる。
「……獣臭だ。憑き物筋の久賀くんの。もう完全にイケないことになってるけども」
「あの久賀か?言わなかったけど、あいつはこっちにまでちょっかい出してきたからとっちめたんだ。当分動けないと思ってたけど早かったな。身内の仕返しとかかな」
「……これはまともな方法じゃないよ……本気で人を呪うやり方。人の理性とか、大事なモノみんな手放してる。獣の力に吞まれちゃってるんだ……」
登は眉をひそめた。
「俺が呪われるんなら全然かまわないけど、おまえやばあちゃんにまでいってるのか?」
「もっと悪いよ、登ちゃん。無差別だよ。それこそ運んできた人とかも危ないレベル」
「ちょっと待て……やべぇ、この荷物、田中さんのところに間違って届いてたんだ」
瑚珠は息を呑んだ。
「すぐに田中さんのところに……ううん、それまでにどれだけの人が触ったんだろう……私の力は直接その人に触れないと完全には働かない。それにその箱自体を祓うにはとても力が足りない……」
「落ち着けよ瑚珠。俺がまず周りの人に降りかかった呪いを肩代わりする。本体はそれからだ」
瑚珠は登の言葉に希望を見つけて顔を上げるが、すぐに頭を振った。
山田家の男は文字を操る。
願いを文字にすれば世の理をねじ曲げることすらできる。
けれども、それは身体の自由や命と引き換えることになる。
「そんなに何人も背負えるものじゃないよ、登ちゃん。ただでさえ目も耳も、これ以上力を使うわけにはいかないくらい弱ってるでしょう?時々近くで私が何したって前みたいに反応しないの知ってるんだからね!」
登は一瞬目を見開いたが、すぐにいつもの調子に戻った。
「気づかないふりしてるだけだ、おまえが目の前で堂々とつまみ食いしてることなんてな」
おどけた様子だが、瑚珠が止める間もなく心置き場の白紙の本と筆を手にしている。
筆を走らせる登は祖母の咲でさえ止められない。
瑚珠は祈る思いで見守るしかなかった。
その瑚珠に見透かされているとは思っていなかった登だが、他の選択肢を考えることはできなかった。
最後の文字を書き終えた時、登は全身を痛みに貫かれて倒れ伏し、床を這っていた。
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