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「まずは弟が眷属を使ってこちらにご迷惑をおかけしたこと、申し訳ありません。止めていただいたことに私は感謝しています」
「いや、話し合えたら良かったんだが、無理な状況だった。あの時のことはこちらもすまなかった」
登は意外な成り行きに首を傾げるばかりだが、指一本動かすのにも苦労する今の状況ではありがたいことだった。
「わかっています。私がもっと早く動かなくてはならなかった。それと今回弟がしたことは決して許されません」
「そんなことはいいからわかってるならその箱、引き取って。あと腐れないように始末してね。弟さんが二度とこんなことしないように見張ってて」
瑚珠はきっぱりと言い放った。
「弟は意識を完全に手放していて、今後目覚めることはないと思います。私はあのあと弟と眷属の繋がりを断ちましたが、弟は……昔瀧上家が封印し保管していた眷属を解き放ちました。もっとも弟にはそれを操ることなどできませんでした」
獅央は箱を手にした。
何かを呟くと、その身体がびくんと跳ねた。
獅央の爪と歯はぬらりと光り、獣の目に変わる。
それも一瞬のことで、何事もなかったように元に戻っていた。
「お見苦しいところをお見せしました。私が管理する限り、この眷属が世に現れることはないと固くお約束します」
獅央が立ち去ったあと、登と瑚珠は揃ってその場に崩れ落ちた。
「あんなことできるんならもっと早く来てくれたらよかったのに!」
「もっともだよな。何か言ってやりたいところだけどどうでもいいや」
登はそのまま眠りに落ちた。
「ひどい目にあったよ。雨は降るわ、渋滞に巻き込まれるわ。嫌な予感がしてさっさと切り上げてきたけど……とんでもない気配がするね」
ことが全て終わってから帰ってきた祖母の咲に、瑚珠は一日のできごとをかいつまんで報告した。
「すまなかったね、瑚珠。よくやった」
咲は苦しげに眠る登を心配そうに見ながら、瑚珠を労った。
瑚珠は、夕飯も食べずに膝を抱え、登のそばから離れることはなかった。
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