【序章】獣従える一族~久賀獅央・利波~

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【序章】獣従える一族~久賀獅央・利波~

利波(となみ)、おまえはここに帰ってきて私に何を伝えるつもりだったんだろうね」 兄の獅央(しおう)の声はどこまでも静かで優しいが、利波は心臓が凍りつくほどに冷たく感じた。 「度々おまえが起こすトラブルを私が知らないとでも思っていたか。家を思ってのこと、いつか自ら改めるだろう。父はおまえには甘い。そうやって目を瞑ってかばって無かったことにしてきただけだ」 「でも……!」 獅央の目は何を見つめているのか、恐ろしいほどに(くら)い。 「そのつもりがなくてさえ、眷属(けんぞく)たちは私たちに気に入られようとして命じなくとも動く。主のためと思い込み他人の金品を持ち去り、病気にしたり怪我をさせることすらある……私たちは極力そうさせないよう眷属を厳重に自分の支配下に置かなくてはならない。私はおまえに常々そう言い聞かせてきたね」 「兄さん!僕だってそう思ってた。でもここの連中は自分たちが分け前にあずかることができる限りすり寄ってくるくせに、心の中じゃ僕らを忌み嫌う……どいつもこいつも欲にまみれて」 「だから利波。私はおまえをこの土地にも親族にも縛られないように外に出した。その意味がわからなかったはずはないだろう。どうして自分の都合の良い方に流された。それだけでなく、眷属を悪用した」 「自分勝手なやつらがどうなろうと知ったことじゃない。自業自得なんだよ」 「利波。ここに来ればいくらでも別の眷属が手に入るとでも思ったか?誰かに力を借りられるとでも?」 「兄さん。山田のあれは……化け物だ。今力を合わせて叩かなくては後々大きな災いとなる。父さんも伯父さんも同じ意見だ。力を振るえば自分の身も削れるのはやつの大きな弱点だ。それにあの忌々しい占い師をかばおうと動くんだ。今度はしくじらない」 自信満々に言葉を紡ぐ弟を、兄は憐れむように見た。 「救いようがない。父に伯父?あれは老害にすぎない。おまえがこれほど愚かだとは思わなかった。山田家の新しい当主に弱点があるとしたら、おまえの力を全部奪わなかった甘さだ」 「兄さん、何を?……」 「利波、二度とは言わない。私は久賀家が管理する全ての眷属とおまえの繋がりを断ち切る」 a2b8e3f7-d623-4f72-9f17-34e1ed2c7f15
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