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あの日の約束
もうひとつ忘れていた事があった。
アンジェラとあの日、交わした約束だ。
そういえば、ひとつだけ心当たりがあった。
十年くらい昔のことだ。あれは小学校の夏休みの頃だった。その日は朝から雨が降っていた。うっとうしくジメジメした天気だ。
雨の降る公園に、ひとりの女の子がベンチに座って空を見あげていた。可愛らしい女の子だ。ベンチには屋根があったので雨に濡れることはない。
コンビニへジュースとお菓子を買いに行った際にその女子を見かけた。帰る時も彼女は、ずっと雨空を見上げていた。
いつまでも見上げているので心配になり声を掛けた。
「ねえェ……、さっきからここに座って空を見上げているけど、お母さんは?」
辺りを見回すが、親御さんらしき人はいない。
「え、お母さんはいないわ。亡くなったの」
あまり深刻ではない。むしろあっけらかんとした顔だ。
「えェ、ああァ、そうかゴメン。朝からずっと雨が降ってるねェ……」
「私の所為じゃないわ」
「そりゃァ、そうだけど。ボクの家はすぐそこだから来ない? ここだと雨に濡れるだろう」
何気なくボクは彼女に手を差し伸べた。
「お菓子はある?」
女子はボクがコンビニで買ったレジ袋を覗き込んだ。
「え、ああァ、好きなだけ食べて良いよ」
ボクはお菓子の入ったレジ袋を渡した。
「ありがとう。お兄ちゃんの名前は」
「ボクは星だよ。星カケル」
「わかったわ。じゃァ、ポチね」
「いやいや、ポチじゃないよ。星だよ。キミの名前は?」
「わたし、そうね。アンちゃんッて呼んで」
「フフゥン、アンちゃんか」
そうだ。思い出した。あのときのアンちゃんが、アンジェラだったのだ。
それからボクの家でゲームをしたりして遊んだ。すぐに彼女もボクに懐いてくれた。
彼女は、まさに天使のように愛くるしい女の子だ。ひとりッ子のボクにとって、妹のような存在だと言って良かった。
このままずっとアンと暮らしていけたら。
だが、そう言うワケにもいかない。すぐに別れが訪れた。
ある日、アンの親戚のお祖父様と言う人が来て、彼女を引き取ると言ってきたのだ。
相当な資産家らしい。
別れ際、アンはボクに告げてきた。
「ねえェ……、お兄ちゃん」
「なんだい。アンちゃん」
「いつか、アンが大人になったらお兄ちゃんのお嫁さんにして」
「ああァ、もちろんだよ。いつかお嫁さんにするよ」
ボクは優しく彼女を抱きしめた。
その後、彼女はすぐに祖父の元、アメリカへ留学したらしい。
遠いあの日の約束。
アンジェラが忘れるはずはない。
彼女は一度記憶したことは決して忘れないという。
いつかボクは彼女との約束を叶える日が来るのだろうか。
お嫁さんにすると言う約束を。
THE END
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