あの日の約束

1/1
8人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ

あの日の約束

 もうひとつ忘れていた事があった。  アンジェラとあの日、交わした約束だ。  そういえば、ひとつだけ心当たりがあった。    十年くらい昔のことだ。あれは小学校の夏休みの頃だった。その日は朝から雨が降っていた。うっとうしくジメジメした天気だ。    雨の降る公園に、ひとりの女の子がベンチに座って空を見あげていた。可愛らしい女の子だ。ベンチには屋根があったので雨に濡れることはない。  コンビニへジュースとお菓子を買いに行った際にその女子を見かけた。帰る時も彼女は、ずっと雨空を見上げていた。  いつまでも見上げているので心配になり声を掛けた。 「ねえェ……、さっきからここに座って空を見上げているけど、お母さんは?」  辺りを見回すが、親御さんらしき人はいない。 「え、お母さんはいないわ。亡くなったの」  あまり深刻ではない。むしろあっけらかんとした顔だ。 「えェ、ああァ、そうかゴメン。朝からずっと雨が降ってるねェ……」 「私の所為(せい)じゃないわ」 「そりゃァ、そうだけど。ボクの家はすぐそこだから()ない? ここだと雨に濡れるだろう」  何気なくボクは彼女に手を差し伸べた。 「お菓子はある?」  女子はボクがコンビニで買ったレジ袋を覗き込んだ。 「え、ああァ、好きなだけ食べて良いよ」  ボクはお菓子の入ったレジ袋を渡した。 「ありがとう。お兄ちゃんの名前は」 「ボクは星だよ。星カケル」 「わかったわ。じゃァ、ポチね」 「いやいや、ポチじゃないよ。星だよ。キミの名前は?」 「わたし、そうね。アンちゃんッて呼んで」 「フフゥン、アンちゃんか」  そうだ。思い出した。あのときのアンちゃんが、アンジェラだったのだ。  それからボクの家でゲームをしたりして遊んだ。すぐに彼女もボクに(なつ)いてくれた。  彼女は、まさに天使のように愛くるしい女の子だ。ひとりッ子のボクにとって、妹のような存在だと言って良かった。  このままずっとアンと暮らしていけたら。  だが、そう言うワケにもいかない。すぐに別れが訪れた。  ある日、アンの親戚のお祖父様と言う人が来て、彼女を引き取ると言ってきたのだ。  相当な資産家らしい。  別れ際、アンはボクに告げてきた。 「ねえェ……、お兄ちゃん」 「なんだい。アンちゃん」 「いつか、アンが大人になったらお兄ちゃんのお嫁さんにして」 「ああァ、もちろんだよ。いつかお嫁さんにするよ」  ボクは優しく彼女を抱きしめた。  その後、彼女はすぐに祖父の元、アメリカへ留学したらしい。  遠いあの日の約束。  アンジェラが忘れるはずはない。  彼女は一度記憶したことは決して忘れないという。  いつかボクは彼女との約束を叶える日が来るのだろうか。  お嫁さんにすると言う約束を。  THE END
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!