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美少女警部補アンジェラ
この世にはボクら凡人では及びもつかない天才がいる。
彼女もその中のひとりだ。
たった十秒で謎の事件を解決する天才美少女捜査官。
その名も姫河アンジェラ。
見た目はアイドルのように可愛らしい現役女子高生だ。
だが中学校時代、単身アメリカへ留学し一流大学を飛び級で卒業した天才だ。
その後、日本の高校へ編入し直し、さらに国家公務員一種試験をパスしてキャリア官僚となった。
おそらく日本人初の女子高生キャリア官僚だろう。警視庁へ入庁した途端、警部補の階級が用意されていた。
「ねえェ、ポチ」
アンジェラは気だるげにボクを呼んだ。
「はァ……、あのですね。ポチじゃありませんよ。ボクの名前は星ですから。
ちゃんと呼んでください。星翔ですよ。いい加減、覚えてください」
すかさずボクは訂正した。
絶対、アンジェラはボクのことをバカにしているのだ。天才の彼女がボクの名前を覚えられないはずはない。
なにしろ彼女は瞬間記憶術と言って目の前のことを一瞬で写真に映したように記憶できるらしい。
なのでほとんどの筆記テストは満点だ。
ボクは、そんなアンジェラのお目付け役として採用された。今年新卒で階級はまだ巡査だ。
「ねえェ……、ポチ。覚えてるかしら?」
「ええェ? な、なにをですか」
「あの日、交わした約束よ」
「え、約束ですかァ。なにか約束なんてしましたか」
まったく覚えがない。あの日ッていつだろう。
「フフゥン、覚えてないのね。ポチは」
「はァ、どうも済みません」
謝るしかない。なにかボクがアンジェラと約束をしたのだろうか。
「ねえェ、ポチ。胸の高鳴りがおさまらないの」
アンジェラは妖しい眼差しでボクを見つめた。
「いやいや……、そんな胸の高鳴りなんて知りませんよ。ボクに、どうしろって言うんですか」
嫌な予感がした。
「何か、ワクワクするようなハッピーな連続凶悪殺人事件はないかしら?」
まるで女子高生が友人とバラエティ番組の話しをするような感覚だ。
「ンな、そんなのがあるわけないでしょ。どこの世界にハッピーな連続凶悪殺人事件があるんですか」
とても女子高生がするような会話ではない。どこかの国のテロリストか殺し屋みたいに物騒な話題だ。
「だって、アンジェラは一日ひとつは謎を解かないと禁断症状が出ちゃうタイプの刑事天使なのよ」
「どんなタイプのデカ天使ですか。一日一善じゃないんですから」
無茶クチャ言う女の子だ。
「すべての謎はこのアンジェラに解かれたがっているのよ」
「はァ、それは……」
返す言葉が見つからない。まったくスゴい自信だ。実際、いくつも不可解な謎の事件を解いているので虚言と言うワケではない。
そんなアンジェラの元へ依頼が舞い込んだ。
その依頼主は颯爽と真っ赤なオープンカーに乗って現われた。
無駄に美しすぎると評判の石動リオ警部補だ。相変わらず見事なプロポーションをしている。モデル顔負けのスタイルだ。ただし色気がないのが玉にキズと言えるだろう。だがボクはそんな彼女が大好きだ。
「ハァイ、アンジェラ。ちょっと来て頂戴」
まるで少し年上の女子大生が、友人の女子高生をカラオケに誘うような感じだ。
二人が並んでいると仲の良い姉妹みたいにお似合いだ。
「アンジェラに頼みがあるのよ」
強引にリオはアンジェラを車に乗せ、連れ去ろうとしている。
「ンうゥ……」
アンジェラも不満そうに眉をひそめた。
「はァ、何か事件なんですか。リオさん?」
ボクもかつて石動リオ警部補とパートナーを組んでいたので気になって訊いた。
「いいから家へ来て。口で説明するより早いわ」
有無も言わさずリオはアンジェラを助手席へ乗せ、ついでにボクを後部座席へ押し込んで発進させた。
「ちょっと頼みますよ。安全運転で」
慌ててボクは警告した。依然として乱暴でワイルドな運転だ。警察関係者が人身事故なんてシャレにもならない。
「フフゥン、わかってるわよ」
だがリオも相当、運転には自信があるようだ。
運転テクニックがあるのは認めるが、是非ともスピードの出し過ぎには注意してほしい。
道すがらリオはアンジェラとボクに説明を始めた。
「先日、私、引っ越したのよ」
「はァ……、そうですか」
引っ越し祝いでも寄越せと言うのだろうか。
「だけどそこがとんでもないトコで、参っちゃって」
「えェッ、とんでもないって、何がですか。隣りが半グレとか?」
「ううゥン、半グレなら軽くボコボコにしてあげるんだけどねえェ。二度と夜中に騒げないよう口の中に爆竹を詰め込んで」
リオはニッコリと笑みを浮かべた。
「いやいや、どこが軽くボコボコなんですか」
病院送りにするつもりか。
彼女が本気で喧嘩をすれば、半グレでも太刀打ちできない。半殺しにされかねない。
「そういうんじゃなくて、いわゆる事故物件だったの。住んでみたら、目眩はするし頭は痛くなるし、肩は凝るし。スゴく調子が悪いのよ」
「はァ……、なるほどオカルト系ですか」
さすがのリオも心霊現象には手を焼いているようだ。腕力づくで幽霊を黙らせるワケにはいかないだろう。
「そ、ッでェ……、詳しく調べてみたら前の住人も頭痛や目眩がするとか言って、すぐに引っ越していったらしいの。ほら、途中に一人でも間に挟めば事故物件の記録が削除されるでしょ」
「はァ……」確かに。わざわざ事故物件と記載する必要はない。
「今朝も起きたら目眩がしたし、こんなこと生まれて始めてなのよ。絶対に呪われているわ。あの部屋!」
「ぬうぅ……」
ボクは呻いてしまった。元来、ボクはオカルトやホラーは苦手だ。
事故物件と聞いただけで気が滅入ってきた。
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