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希望が消える瞬間
スマートフォンのアラームを止め、毎日閲覧しているニュースアプリを起動した。
芸能人の不倫がニュースのトップを占めている。報道されない凄惨な事件がこの世には五万とあるのに呑気なものだと嘲笑しながらベッドから下り、会社へ行く準備を始める。
バターをたっぷりと塗ったトーストを食べながらスマートフォンのアルバムを開き、一週間前まで付き合っていた恋人の写真を画面いっぱいに表示させた。
「そういえば、こんな笑顔だったな」と呟きスマートフォンをスクロールしていると、見覚えの無い動画を発見し指が止まる。
再生してみるが、真っ黒な画面で音が何も入っていない。寝ぼけて撮影してしまったのだろう。
撮影した時刻を確認すると深夜二時だった。
音量を最大にしてみる。すると、私の寝息に混じって何かを引きずるような音が聞こえて来た。
その音は徐々に大きくなり、スマートフォンを拾い上げる音と共に停止する。目を凝らしてみると、薄闇の中で眠る私の姿が映し出された。
背筋が凍り付く感覚に思わず停止し、動画をはじめから再生して改めて確認する。
明らかに何者かがこの家に侵入し、私のスマートフォンで撮影している。
動画は残り五秒。このまま終わるのかと思いきや、最後に女性の白い顔がスライドするように映り込んで停止した。
その女性の顔はよく知っている。なぜなら、先程アルバムで笑っていた顔であり、今もこの部屋の中にある顔なのだから。
動き出すはずなんて無いと部屋の端に置かれたクーラーボックスの蓋を開く。そこには、光を失った瞳で見上げてくる女性の顔があった。その表情は先程の動画と全く同じものだった。
「そろそろ埋めに行けってことか」と呟き立ち上がる。その瞬間、冷たく長い指が首筋に絡みつく。
私は、瞳から希望が消える瞬間を見るのが何より好きだった。しかし、次に光を失うのは、どうやら私のようだ。
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