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驚いて目を開ける。
そこには、少女がいた。白くて長い髪、陶器のような真っ白い肌、柔らかそうな白い生地のワンピースは、海の中でゆらゆらと動いている。頭には、白くて丸い何か──おそらくミズクラゲだろう──がくっついている。
どこまでも白いその容姿はまるで白化した珊瑚のようで、彼女がこの世のものではないことを暗示しているようだった。
「あ、目開けたね、おにーさん」
少女が目を開く。桃色の瞳に、頭のクラゲと同じ、四つ葉の模様が水色で入っている。人ではありえないその両眼に、僕は声をあげてしまった。
「ごめんごめん、怖かったよね」
少女は目を閉じた。白くて長い睫毛を僕はつい見てしまう。
「ね、おにーさん。もし良かったらさ、お散歩しない?」
「……え?」
「お散歩だよ、お散歩。おにーさんも、海、大好きなんでしょ」
「うん……」
返事をして、僕は海中で声が出せることに驚いた。
「あ、がっ、あっ」
「大丈夫?」
「なんで、声、出せてるのかなって」
「ふふ、それは私の力なのです」
少女はにこ、と微笑む。その笑みは落ち着いた大人のものに似ていて、少女のはずなのにどうして、ここまで僕は落ち着いていられるのだろう、と不思議に思った。
「ほら、行こうよ」
少女は僕の手を取る。体が勝手に少女の泳ぐ方向へと動いていく。力を入れていないのに、動いていく。
ふわり、ふわり。
少女の泳ぎを表すなら、そんな響きが似合っていた。
海の中は想像していたより心地良くて、僕はうとうとしてしまう。そんな様子の僕を少女は責めることもなく、ただにこにこと笑って泳いでいく。
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