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夏の歌
他の仲間とも駅で分かれて、あてもなく並んで歩く夜道。
公園の電灯に、虫がチラチラ飛び回る。
だんだんと歩みがゆっくりになる。
離れ難い二人の気持ちは一緒。
「もうこんな時間か」と雄介。
「待ち合わせが夕方だから、あっという間だね」と小夜。
「どうするこれから」
「どうしよっか?」
「俺んち、来る?」
「良いの?」
「散らかってるだろうけど」
「そんなの気にしないけど」
初めて雄介のうちに招かれた小夜。
(どうしよう、まぁそれなりの準備はしてるつもりだけど)
小夜にとって、初めて男性の家に招かれる。
雄介の部屋は、二階建てアパートの角部屋。
昭和の感じが残る部屋。
「ボロアパートで恥ずかしいけど、安い家賃でさ」
雄介は言う。
「私の部屋と変わらないよ。仕送りでなんとかするには、仕方ないよね」
とは言いつつ、それなりに片付いてる雄介の部屋。
(雄介、私を呼ぶつもりだったかな?)小夜は小さな覚悟と雄介の気持ちを思った。
部屋は狭いので、座る場所はベッドの上。
(わーありきたりの展開じゃん。少女漫画でみるシチュエーション!)
小夜は漫画で見た主人公の女子の事を思い出していた。
雄介にしても、小夜の気持ちを押し図りつつ、どうアプローチするかドキドキしながら話しかける。
「麦茶飲む?ビールも缶だけどあるよ」雄介の問いかけに
小夜は「麦茶でいい。雄介は飲みたければ、ビール飲んでもいいよ」
冷蔵庫を開けながら、麦茶のペットボトルと缶ビールを出して、ラジオをかけた。
「ラジオ聞くの私、久しぶりかも」
「そう?俺、配達の時運転しながら結構聴いてるから、うちでも聞くようになったよ」
「ふーん」
部屋に流れる歌は『夏の歌』特集だった。
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