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「いつだっけ、今年の花火大会」
太陽から幾千もの光るカケラが落ちてきたのか、将又無数の星々が身を潜めているのか。そう思わせるほど、輝きに満ちている今日の海。そこへ朝陽が作り出すのは、自身を反射させた白い道すじの様なもの。この線の上をもし歩けたのならば、その先に待ち構える巨大なアメリカ大陸へ到着するのだろうか。
「ねえ大地聞いてる?今年の花火大会っていつだっけ?」
目の前に広がる大自然に感動していれば、棒アイスを頬張る麦にぐいと腕を掴まれた。そんな彼女には白けた目を向ける俺。
「朝飯がアイスとか、ないわあ」
「だって暑いんだもん。大地みたいに朝からコロッケパン食べられる方がおかしいんだよ、朝が苦手なくせに」
「起きるのは苦手だけど、起きちゃえばこっちのもんだから」
「ふうん」
「あ、垂れてるぞ。もったいなっ」
今日も今日とて谷底に近いレベルの内容で繋ぐトーク。今時スマートフォンも携帯していない麦とのコミュニケーションは、背文字遊びをしたり、ふざけたクイズを出しあったりと、昔とちっとも変わらない。
「ここの花火大会は毎年五日じゃなかったっけか?八月五日、あと二週間後くらい」
遅れて俺が答えると、ちらっと海の向こうへ視線を投げた麦が、その視線を俺に戻してこう言った。
「じゃあその花火大会、私と一緒に行こーよ大地。ふたりっきりでさ」
え、やば、なんかデートに誘われた。
大きな瞳に捉えられ、俺は刹那、金縛りにあう。今こうして麦とふたりで海を眺めている状況も、はたから見れば十分にデートなのだろうけれど、改めて未来の予定を決めてしまえばそれはもう、何て言うかこう、本物のデートだ。
「行ぐ」
華やぐ心を隠そうとした結果、どこかの方言の如く訛った俺。
「おら、麦と花火行ぐ」
感情を読み取られまいと真顔を貼り付けたけれど、幾らか口角は上がってしまっていたかもしれない。
小さな拳を口元へ運び、クスクスと笑った麦は、何故だかその拳でこつんと俺の脇腹にパンチを送った。
「じゃあ楽しみにしてるね、八月五日」
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