麦の音

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 毎年地元で開催される花火大会には、麦と家族ぐるみで訪れることが多かった。しかしそれは俺等がまだ小さな小学生時代までのことで、中学校に上がった途端、その機会はぱたりとなくなった。俺は俺の友達と、麦は麦の友達と、って、それが常識になっていった。だから今回麦が俺を誘ってくれたことは心底嬉しく思ったが、正直驚いた部分もある。もしかして仲の良い奴等と喧嘩でもしたのかな、なんて考えも頭を過ぎった。  麦はどうして、俺を誘ったのだろう。  チリンチリン。  麦から花火大会へ誘われた翌日の朝、スマートフォンのアラームよりも早くに聞こえた彼女の音。まだ寝かせてくれよと願う脳に反し、知らず知らずのうちに己の手で開かれる自室の窓。 「麦……?」  けれどそこに麦の姿はなく、青い空にもくもくとした入道雲が浮かぶだけ。  チリンチリン チリンチリン。  どうやら俺はまた、赤の他人が鳴らすベルの音に引っかかったらしい。ゆっくりとスライドし、窓の鍵を閉める。ごろんとシーツへ横たわり視界を閉ざせば、瞼の裏に現れたのは笑顔の麦。  大地おはよー!  彼女不在の四角い枠。そこには何の価値も感じない。
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