33人が本棚に入れています
本棚に追加
毎年地元で開催される花火大会には、麦と家族ぐるみで訪れることが多かった。しかしそれは俺等がまだ小さな小学生時代までのことで、中学校に上がった途端、その機会はぱたりとなくなった。俺は俺の友達と、麦は麦の友達と、って、それが常識になっていった。だから今回麦が俺を誘ってくれたことは心底嬉しく思ったが、正直驚いた部分もある。もしかして仲の良い奴等と喧嘩でもしたのかな、なんて考えも頭を過ぎった。
麦はどうして、俺を誘ったのだろう。
チリンチリン。
麦から花火大会へ誘われた翌日の朝、スマートフォンのアラームよりも早くに聞こえた彼女の音。まだ寝かせてくれよと願う脳に反し、知らず知らずのうちに己の手で開かれる自室の窓。
「麦……?」
けれどそこに麦の姿はなく、青い空にもくもくとした入道雲が浮かぶだけ。
チリンチリン チリンチリン。
どうやら俺はまた、赤の他人が鳴らすベルの音に引っかかったらしい。ゆっくりとスライドし、窓の鍵を閉める。ごろんとシーツへ横たわり視界を閉ざせば、瞼の裏に現れたのは笑顔の麦。
大地おはよー!
彼女不在の四角い枠。そこには何の価値も感じない。
最初のコメントを投稿しよう!