麦の音

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 何度聞いても納得いかなかったが、一度見たらすぐさま頷けた。そんな経験が、小学生の頃にある。それは担任の先生が授業の合間に出したクイズだ。  サイズに差のない、全く同じ長さの紐を三人に配りました。ひとりは(えん)を、ひとりは三角を、もうひとりは四角の図形をそれぞれその紐で作りました。さて、どの図形の面積が一番大きいでしょうか。  問題文を聞き終えた俺は、この先生は何を言っているのだろうと不思議に思った。それは文章の意味が理解できなかったとか、難しすぎるとか、そんなことではなくて。  全く同じ長さの紐を使って図形を作るんだ。だったら円だろうが三角だろうが四角だろうが、全部一緒の面積になるに決まっているじゃないか。それなのにどうして先生は、「全て同じ」の選択肢を用意していないのだ、と。  周りの児童たちが円かな四角かな、いや、三角かもなどと思案する中、俺はただひとり、考えることを放棄した。  残念!正解は「全て同じ」でした!悩ませちゃってごめんね!  え〜!!先生ひどーい!!  だなんてそんなやり取りを、(のち)にするのだろうなと予想して。  けれども数分後、担任の先生はこう言った。 「一番面積が大きい図形は円です。ちなみに四角だったら、長方形よりも正方形の方が大きくなるわよ」
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