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フィリピン産にエクアドル産にメキシコ産。あ、これは俺の好物バナナの輸入産地か。え、この風どこ産?
「は?」
俺の問いを無視した麦が寄越してきた、解せぬクエスチョン。その横顔に一文字投げると、麦は再び風を注入、そして吐く。
「正解は、アメリカ産でしたっ」
イエーイと何故か拍手をし、自身を称え出した麦。出題者と回答者が別個であって初めてクイズは成り立つのに、彼女にその概念はないらしい。
「どうしてアメリカ産なの」
「だって太平洋の向こうは、アメリカじゃん。だから向こうから来た風は全部、アメリカ産じゃん」
「カナダもあるよ」
「カナダはもう少し上でしょ」
「でも風が真っ直ぐ一直線に来るとは限らない。斜めから吹いてくる可能性だって──」
「大地は私と可能性、どっちを信じるの?」
ええと俺等って今確か、高一だよな。とふと考えてしまったのは、あまりにもレベルの低いトーク内容に驚いて。けれど「自身」と「可能性」を天秤へ乗せた麦の眼差しは真剣で、はぐらかす術を見失う。
「麦」
そう言えば、その瞳がにまっと細まった。
「でしょ?」
「うん」
「ちなみにこの波も、アメリカ産だから」
だってあっちから来てるから、と視認できぬ大陸を指差す麦に、俺はもう一度「うん」と頷いた。
ザザンと音を立てた波が、足元の砂を掬って行く。寄せては返す、アメリカ産の波。一体どれほどの年月をかけて、日本へ到着したのだろう。
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