麦の音

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 私、二十歳(はたち)まで生きられるかわからないんだよね。  数年前。今日の給食はカレーらしいよ、的なノリで告げられた酷な現実。麦が病気を患っていることは知っていた俺だったが、それが命の長さに関わるとまでは思っていなかった。  あの時抱いた絶望は、今でも鮮明に覚えている。漆黒の墨汁よりもダークなものに全身包まれて、視界が一瞬にしてゼロになる。膝を抱え、闇で(うずくま)るだけの俺に微かな光をくれたのは、二十歳まで生きられるかわからないと言った当の本人、麦だった。  そんなに落ち込まないでよ、大地。私は二十歳までに死ぬ気なんか、これっぽっちもないんだから。  カランカランと、空き缶でも跳ねた様な軽い声。俺はそれに励まされた。
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