麦の音

8/26
前へ
/26ページ
次へ
「はいはいはいっ。それじゃあ行こっかっ」  だいぶ真剣な口調で注意したつもりだったけれど、麦はしれっと受け流す。 「またコンビニ寄ってくー?今度は炭酸水じゃなくて、自転車のカゴで揺れても平気なやつにしなよ」  欠陥品。その言葉が本気だったのか冗談だったのか、()の空気が元に戻った今、確認するつもりはないけれど、次にもしまた麦が口にしたら、今度は本気で怒ろうと思う。  お前が欠陥品なわけないじゃないか、いい加減にしろ、もう二度とそんなこと言うんじゃねえ、って。  ベッドの上、うーんと伸びた俺は、その腕を二回まわして覚醒の準備。そんな俺の様子を四角い枠の中から朗らかに眺めてくる麦は、相も変わらずお団子ヘアで、青空に映える入道雲の絵画に思えた。と、いうのは嘘で本音はこれ。  どこのモデルさんかと思うほど、今日も綺麗だよ。 「ちょっと準備するから、窓閉めるよ」 「はーい」 「自転車、鍵ささったまんまだから、玄関先まで出しておいて」 「はーい」  窓を閉め、パジャマと然程変わらぬ服を身に纏う。顔を洗い、歯を磨き、ビーチサンダルへ足を差し込む。今日もここまでの所要時間は五分くらいだけれど。 「お待たせ」 「おっそーい」  やはり遅いと言われてしまうのだから、俺はどうやらまだまだだ。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

33人が本棚に入れています
本棚に追加