第一章 桜の出会い

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第一章 桜の出会い

 桜の季節だ。  三日前に、クラス編成を確認に行った時、校庭は花開いた桜でいっぱいだった。 (昨夜の雨で、少し散っちゃったかも)  清水 宇実(しみず うみ)は、電車に揺られながらそんなことをぼんやり考えていた。  それでも、新緑の葉桜も好きな宇実だ。  四季折々で表情を変える、校庭や中庭の木々。  この一年、それらを心に刻むつもりの彼だった。 (三年生になったんだから)  高校に通うのも、今年で最後。 (一年間、悔いの無い日々を……)  そう、心を引き締めているところに、嫌な気配を感じた。  制服の上から、尻頬を撫でる大きな手の感触。 (痴漢だ)  はぁ、と宇実は小さくため息をついた。  登校の混んだ電車内でこういう目に遭うのは、これが初めてではない。  大人しくしているのをいいことに、背後の男は硬くなった局部を押し付けて来た。 (ああ、もう嫌だな)  宇実は、眉根を寄せた。
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