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「君、大丈夫かい?」
男子生徒は、痴漢の手首を掴んだまま、宇実に話しかけて来た。
「え。あ、はい……」
「乗務員を呼ぼう。この男を、警察に突き出すんだ」
「いいよ。そんなことしてちゃ、学校に遅れちゃうよ!」
その時、電車のドアが開いた。
痴漢は手を振りほどき、人ごみを泳ぐようにして、慌てて降りて行った。
「逃げられたか」
「もう、いいって」
それより、と宇実は男子生徒に向き直った。
「助けてくれて、ありがとう。僕は、清水 宇実。君、僕と同じ学校? 転入生?」
記憶力には自信のある、宇実だ。
同校に、この男子の見覚えは無い。
時節柄、転入かと考えた。
「私は、天羽 要(あもう かなめ)。その通り、転入生だ」
そして、良かったら学校まで案内して欲しい、と要は言ってきた。
「手続きに来た時は車だったから、電車や徒歩での道順がうろ覚えなんだ」
「いいよ。一緒に行こう」
宇実は、初めて知り合ったこの要と共に、電車を降りた。
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