浜辺の告白

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浜辺の告白

ザザザァーーーー……。 心地よい波の音。 海水浴シーズンを終えた今時期は、海に来る人もほとんどいなく、この浜辺も貸し切り状態だ。 そんな中、寄せては返す波打ち際で楽しそうに笑うハナ。 波が打ち寄せるタイミングで、あえてギリギリまで近づいては、自分の足が濡れぬよう慌てて後ろに逃げる。 キャーキャー……いや、ギャーギャー言いながら、全力で波に挑み全力で波と遊ぶハナ。 あまりの大騒ぎと爆笑っぷりに、思わずこちらも笑いが止まらないほどだ。 僕は、その姿が愛しくてたまらなかった。 ハナの笑顔は眩しい。 真夏の向日葵のような明るさだ。 なんだか胸が込み上げる。 僕は、やっぱりハナが好きだ。 好きだーーーーーー。 僕の心の中で、その想いが改めて確信的なモノになり、僕の心の中に熱いなにかが迫ってきた。 そしてそれは、ある大切な決意へと変わっていった。 僕はひとり静かにうなずいた。 ハナに告白しよう。 改めて言わなくても、ハナはもう僕の気持ちに気づいてるかもしれない。 でもここは、男としてバシッと決めよう。 告白する時期が早いとか遅いとか、そんなことはもうどうでもいい。 好きなもんは好きなんだ。 どうしようもない事実だ。 その正直な気持ちだけを真っ直ぐに伝えよう。 しかし、どのタイミングで告白するかはかなり重要だ。 ……よし、夕暮れまで待とう。 日が沈みかけて、海がオレンジ色に染まり出したら。 思い切って告白しよう。 よし。 僕はひとり密かに意気込んでいたのだが……。 ハナの行動は、まるで予想がつかない。 「トオル。私、トオルのことが好きっ。トオルの彼女になりたいです!!」 ーーーーーええっ⁉︎ なんと!! まだ海もオレンジ色に染まらないうちに、ハナの方からなんの予兆もなくいきなりあっさり告白されたのである。 予想もしなかったまさかの展開に、ぽかんと開いたままの口がふさがらない僕。 「え?……あれ。もしかして……ダメ……?」 驚き過ぎて放心状態になっている僕を見たハナの表情はみるみるこわばり、なんとも言えぬ戸惑いのような、そしてひどく寂しげなものに変わっていった。 「ダ、ダ、ダ、ダ、ダメとかじゃなくてっ。いや、ダメなわけないじゃん!嬉しいよっ。ものすごく嬉しいっ!嬉しいに決まってる!」 テンパる僕。 ドギマギしながら慌てて言うと。 「……じゃあ、OK……?」 おそるおそる僕に訊くハナ。 「も、も、もちろん!!」 ブンブンうなずきながら僕が言うと、ハナの顔がぱぁっと明るくなった。 「よかったー!一瞬ダメなのかと思った。嬉しい」 ほころびそうな笑顔のハナ。 「……嬉しいのは僕の方だよ。……っていうか。ホントは、僕が『今日こそはハナに告白しよう!』って、心の中で決めてて。どのタイミングで告白するかも考えてて。夕暮れ時に言おう!って……。それで、日が沈むのを待っていたとこだったんだけど……」 嬉しいやら戸惑いやら恥ずかしいやらで、照れ隠しにポリポリ頭をかいていると。 「えっ?そうだったの⁉︎」 ハナが驚きの顔で僕の方を見た。 そして、満面の笑顔でとんでもないリクエストをしてきたんだ。 「じゃあさ、トオルも私に告白して!」 「ええっ?」 確かに僕はハナに告白すると決心し、意気込んでいた。 しかし、先にハナに告白され、しかも『トオルも告白して』とお願いされたこの状況下で。 改めて告白だなんて。 それは、なんだか妙に恥ずかしくないか? えええ……。 どうしよう。 妙にどころか、やたらと恥ずかしいぞ。 しかも、えらく緊張してるぞ。 ドッキン、ドッキン。 不整脈かというくらい、鼓動が速い。 だけど、ここでふにゃふにゃしてるのもカッコ悪い。 よし! 僕は、ドキドキ鳴り響く心臓をぐっとおさえた。 そして、意を決して海に向かって大声で叫んだんだ。 「僕は、ハナが好きだーーーーーーっ。 大好きだーーーーーーっ。  だから、僕とつき合って下さいっ!!」 言い終わった途端。 自分の顔が、みるみる熱く赤くなっていくのを痛いほど感じた。 は、恥ずかしい……。 でも、これが僕のホントの気持ちだ。 海に向かって大声で叫びたいほどの、ハナへの溢れる想いだ。 そんな僕の目の前で、ハナはとびきりの笑顔でうなずいた。 「ーーーはい!」 ゆでダコのように真っ赤になっている情けない僕は、嬉しさいっぱいのあまり、砂浜を駆け出した。 こうして。 僕とハナは、彼氏と彼女としてつき合い始めたんだ。 ーーーーーーーーーーーーー ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ハナとつき合い出してからの毎日は、僕にとってホントに楽しくて愛おしいものだった。 不思議なもので、恋をして心が満たされているせいか、生活にもメリハリができて仕事にも熱が入る。 これまで仕事が溜まる一方で、残業残業の毎日だったが、集中力も増し、効率的に仕事を片付けられるようになった。 その結果、残業の回数も減って帰宅時間も前より早くなった。 と、カッコイイことを言っているが。 結局は、少しでも早く仕事を終わらせて少しでも早くハナに会いたい。 それだけだ。 ハナは実家暮らしだったので、ふたりが集まる場所はもっぱらひとり暮らしの僕の家だった。 料理好きのハナは、僕の家に来てご飯を作ってくれる。 それがまた美味しいのだ。 毎日ではないが、ハナの仕事と僕の仕事が終わる時間が合う時は、僕の家でハナが作ってくれたご飯を一緒に食べる。 ふたりでいろいろな話をしたり、時にはビールで乾杯したりの楽しい夕食。 僕は、隣にハナがいるだけで嬉しかった。 休日にはいろいろな所に出かけた。 いわゆるデートというヤツだ。 買い物はもちろん、映画館に動物園に遊園地……。 ハナと行きたい所は、まだまだたくさんある。 でも、遠くに行かなくても、近所の森林公園や原っぱにふたりで出かけて、なにをするでもなくのんびりくつろいだりする何気ないひと時も、僕はとても好きだった。 ハナとは、価値観というか……楽しいと感じたり、嬉しいと感じたりするところがよく似ていた。 だから、同じものを見て、聴いて、触って同じように感動できる。 テレビを観ていて吹き出す笑いのツボもまさに一緒。 ふたりでヒーヒー言いながらお腹を抱えて爆笑。 そんな何気ないことも、嬉しい。 楽しい気持ち、嬉しい気持ち、寂しい気持ち、悲しい気持ち。 いろんな気持ちがあるけれど、どんな気持ちもハナとなら全部一緒に分かち合える気がした。 ハナのことを知れば知るほど、僕はどんどん好きになっていった。 ハナは、僕がこれまでつき合ってきた彼女達とは明らかに違った。 いや、彼女達ではなく、僕の心が違ったんだ。 ハナといると、心がいつもあったかい。 幸せだ。 僕はそう感じていた。 そんな穏やかな幸せな時間は、ゆっくりと流れ。 季節は、落ち葉の秋から木枯らしの吹く寒い冬へと変わっていった。 気がつけば、僕とハナがつき合い出してから3ヶ月が過ぎようとしていた。 「もうすぐクリスマスだねー」 ハナは、飲んでいたココアのカップを置くと、ソファーに寝転んで車の雑誌を見ていた僕のそばに近寄ってきた。 「クリスマスかー」 早いなぁ、もうそんな季節か。 僕は雑誌を閉じて起き上がった。 ハナと過ごす初めてのクリスマス。 なにか喜ばせてあげたいな。 「ハナ、クリスマスどっか行きたいとこある?」 「え?」 「ハナの行きたいとこ行こう。どこでもいいよ。確か、24日と25日、日祝で休みだったよね」 僕がカレンダーを見ながら言うと、ハナが笑顔で言った。 「嬉しい!ありがとう。でも、私はここがいい」 「え?ここって……僕んち?」 「うん。トオルの家でクリスマスパーティーしよう。私、ご馳走作る!」 「いいけど……。そんなんでいいの?」 「それがいいのっ。あ、でもトオルんちクリスマスツリーないよね?やっぱりツリーは欲しいなぁ。ね、ふたりで買わない?」 「よし。じゃあ特大の買うか!」 「うん!」 ハナが嬉しそうにうなずいた。
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