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 当時私は小学3年生で、クラスにいるいわゆる「カースト上位」な女子生徒から目をつけられて「臭い」とか「汚い」とか言われて机を蹴られたり、背中を教科書の角で叩かれたりしました。その子は先生の前だと良い子を演じており、取り巻きもその芝居に付き合わないと自分の立場が危うくなってしまうため、従うほかなかったようです。  クラスでは本ばかり読んでいて、あまり話すこともない「インキャ」な自分がボソボソと打ち明けても先生が信用してくれるはずもないし、黙って耐えるほかないかと小さいながらも諦めて、痛みと陰口しかない毎日を過ごしていました。  そんなある日、とぼとぼと帰り道を歩いていたらグイッとランドセルを後ろから引っ張られたのです。 またあいつらの仕業かと怯えながら振り返ると、そこには誰もいませんでした。  ただ、見慣れない、小さな神社が視界に入りました。  古臭い、朱色の塗料がはげた鳥居。  色褪せた鈴緒に、今にもべしゃりとつぶれそうな本殿。  くたびれた、黒ずんだ賽銭箱。  昔からありそうな神社で、でもすごくこじんまりとしていました。  いつもの通学路にこんなものがあっただろうかと、幼いながら首を傾げましたが、なんだか呼ばれているような気がして、ふらふらと私は狭くて、草がところどころ生えた境内へと、足を踏み入れました。  靴は水に浸され、ランドセルにはマジックペンで汚い言葉や絵を落書きされて、給食袋の中に残飯を入れられたりして、本当に辛くて消えてしまいたいと思いながら歩いていたんです。  両親も面倒くさいのか、それともカースト上位にいる生徒の父親が市会議員をしているからあまり関わりたくないし、仕事も失いかねないと思っていたのか見て見ぬふりをされていました。  だから、すがるものというか、頼るものが欲していました。  神社でもなんでもいいから、話を聞いて、助けてと。  できることなら、あいつらを懲らしめて欲しいと。  私は神社の境内をそろそろと歩いて、たどり着いた賽銭箱の前にぶら下がった鈴緒を両手で握りしめ、左右に振りました。  上にある、赤黒い鈴が低い音で、ガラガラと鳴りました。  小学生だし、お財布なんて持ち歩いていたらあいつらにお金を奪われるに決まっています。ただでさえ母親の財布や父親の財布から千円札を何枚か抜き取るほど、脅され、追い詰められていた私は小銭さえも持ち合わせていません。  なので、ただ拝殿へ向かって柏手をぱん、ぱんと打つだけにしました。  それから、小さい、消えそうな声で打ち明けました。
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