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◇◇◇◇ 蔵前は病院に入ると、慣れた様子で外来受付を通過し、コンビニを横目にエレベーターホールに出た。 脇の階段を2段飛ばしで上っていくと4階の病棟へ続く廊下をスタスタと歩いていく。 念のため表札は確認した。 入退院の都合なんかで具合に変わりがなくとも病室が急に変わることがあるということは、ここ1ヶ月で経験済みだ。 コンコン。 一応ノックをしてから入ると、昨日までと同じ窓際のベッドに座っていた怜生はこちらを振り返った。 「お。今日はいたな」 彼は首にまがまがしいコルセットを巻きながら笑った。 「昨日も来てくれたんだってな。悪かった。リハビリ中だったんだ。日によって時間がまちまちで」 彼は蔵前が差入れに持ってきた卵プリンを頬張りながら言った。 真珠が切った傷は思った以上に深く、頸椎まで一部損傷していた。 しかし頸動脈からは微妙に外れたおかげで、若月のように失血死は免れたのだった。 それが故意によるものか、それとも焦った真珠の手元が狂ったのかは、もはや確かめようがない。 「それで、だいぶ動くようになったのか」 そう言うと彼は右手の指をくいくいと曲げて見せた。 「物を掴むのはなんとか。ある程度の重量がある方が掴みやすいんだ。ガラスのコップとかペットボトルのジュースとか。逆にスナック菓子みたいなものは掴みにくいんだよな」 蔵前はその言葉にふっと笑った。 「入院生活の癖に太るからやめとけって神様が言ってるんだろうぜ」 怜生はその言葉に微笑みながら、自分の指を見下ろした。 「……ボルダリングも、当分無理だろうなぁ」 その言い方に、言葉以上の何かを感じて、蔵前は少し乱暴に怜生のベッドに腰を下ろした。 「――瀬川姉弟の行方は?」 蔵前の顔を見てわかっているだろうに、怜生は敢えてそう聞いた。 「見つからない。あの夜200人体制であの山を囲ったのに、それでも出てこなかった」 「―――協力者がいたのかな」 怜生も馬鹿ではない。もう弟の琥珀ではなく、真珠が実行犯だったということを理解している。 「だろうな。もともとあんな犯行を繰り返して今まで尻尾も見せなかった奴らだ。単独だとは考えにくい」 蔵前は怜生の足の上に寝転がった。 「もうお蔵かな。蔵前だけに」 怜生がそんなつまらないことを言ってくる。 「いや」 蔵前は色素の薄い瞳を開けた。 「必ず現れるさ。ーー性犯罪者が消える町に」
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