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◆◆◆◆ 「戻りました」 外回りから戻ってきた体で事務所に入ると、琥珀は斜め前に座っている男を盗み見た。 渡慶次(とけし)係長。 20年上の45歳。 確か同い年の妻とは学生結婚。 2人の子供はいずれも就職しているはずだ。 「船越病院なんて、下道で10分もかからんだろ。随分遅かったな」 渡慶次は視線を上げないままそう言った。 「すみません。看護師さんたちから、新しいセンサーマットについての質問を受けていて。いい宣伝になるかと思い、ナースステーションを借りて急遽説明会を」 琥珀は軽く頭を掻きながら席に座った。 「ぷっ」 先に戻っていた咲綾が笑う。 彼女から見れば今のこの状況は、よほど滑稽に見えることだろう。 琥珀は今、どうにかして気に入られなければいけない渡慶次を睨んだ。 ************ 「渡慶次係長が練馬の支店長に?」 「そう。大抜擢されたみたいよー?」 咲綾は琥珀の首元に指を這わせながら言った。 「噂では、気心の知れた品川支店の営業数人と、事務員の1人を連れて行くって話」 「――――」 確かに起ち上げのスタッフは、性格も仕事のやり方もわかっている人間の方が使いやすいだろう。 しかし―――。 「でもあんたは無理じゃない?だって渡慶次係長ってどう見ても嫌いでしょ。瀬川君のこと」 ************ 目の敵――とまではいかないが、彼は琥珀のことが入社当初から気に入らないらしく、何かと物言いがきつかった。 成績もルックスもいい後輩への僻みかとずっと気にしないでいたが、ここにきてそうにもいかなくなった。 「どうせ、看護師相手にハーレム作ってヘラヘラしてきたんだろうが」 「ーー辛辣だなぁ」 琥珀はわざとらしく苦笑いをして見せた。 何としてでも起ち上げスタッフに選んでもらわなければ。 琥珀は依然としてこちらを見ようともしない渡慶次の、髪の毛が後退し広くなってきた額を睨んだ。
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