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その後の事はなんかもう記憶が全て吹っ飛ぶ勢いで何も覚えていないと言って良いのだけれど。よほど落ち込んだ顔をしていたらしく、体調不良で先に帰ったと言っておくから帰りな、と友達全員が必死に励ましてくれた。私はお言葉に甘えて式場を抜けてふらふらしながら帰路に、つくはずもなくやけ酒を飲むためにバーに入る。
小洒落た格好の女が酒を飲みまくっている姿は目だったのか、男が声をかけてきた。ナンパかこの野郎、と睨めば意外にも相手に見覚えがあった。
「やっぱ米澤じゃん、どうした可愛い格好で猛獣みたいな飲み食いして。周りの客引いてるぞ」
高校の時たまに話しをしてた志野だった。クールでイマイチ何考えてんだかわからない奴だったけど、言いたい事をズバズバいう性格は好ましい。こいつなら変な気遣いしないだろうと思い私の愚痴を聞け、と無理矢理座らせて話しをして。漢字ドリルでも買ってやろうかウッセエばーか、という会話を最後に私の意識は飛んだ。寝不足なのに酒をかっ喰らったのだから当たり前だ。
そして、朝起きたら素っ裸で寝ている私と志野がいて、昨夜のこと覚えてないの、からのレディース漫画なみの超お決まりパターンになったわけだ。
土下座して謝り猛ダッシュで逃げた私は、二ヶ月経っても生理が来ないことに嫌な予感がして検査薬を試した。その結果を見て、たぶん人生において一番急いで行動したと思う。産婦人科へ走った。
「おめでとうございます、二ヶ月目です」
終わった。なんかいろいろ。
とりあえずどうしよう、一人じゃ育てられない。堕ろす? ……命が芽生えているのに? その考えがぐるぐる回る。
こどもを育てるのは犬猫育てるのとは訳が違う、親になる覚悟だってできてない。両親にもなんて言おうと悩んでいたらつわりが来たらしく、心配して家に来ていた友人の前でゲロってしまった。
病院行くよ、と引っ張って行きそうな勢いの友人に仕方なく事情を説明したところちょっと待っててねと誰かに電話をして。三十分後志野が私の家に来た。友人を見ればグッと親指を立ててくる。
「言ってなかったけど大学の時同じバイトしてたんだ。連絡取りたがってたみたいだから呼んだ」
いや、なんでやねん。
話し合いもクソもなく、やけくそ気味で妊娠を告げて「とりあえず結婚しろとか言うつもりはない」と言ったところ志野が「はあ? 何でだよ」と言ってきたので首を傾げた。
「はい?」
「子供できたなら結婚する以外の選択肢ねえだろ、馬鹿じゃねえの?」
「え、なんでディスられてんの私。付き合ってもいないのに」
「結婚に恋愛感情なんているか。お前は自分の体調と子供の事だけ考えてろ」
「脳内パニックすごいんだけど。そういうもんなの結婚って……あれ? 私の常識間違ってんの?」
「おめでとう! 幸せになってね!!」
近くにいた、話をややこしくしてくれた張本人の友人が何故か泣きながら喜ぶ。待て待て、なんでよ。
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