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ジェットコースターみたいな二十代だったなあ、と三十目前にして思う。今日は家族でランチに来ている。双子の息子と娘は暴走列車みたいに元気だ。三人目もそりゃもう元気でボコボコに腹を蹴ってくれる。痛い痛い、ちょっと手加減して。
男の子らしいし将来はサッカー選手かもしれない。飼ってる犬も寝てる時足をバタバタさせて、夢の中まで走ってるらしい。ウチには暴走列車が多いなあ。
そんなことを考えて笑ってしまう。ニヤニヤしながら大きなお腹をさすっていると「なんでよ!?」と声がした。振り返ればそこにいたのは女が一人だ。
「何でアンタは幸せなの!? あんなクズと結婚して私ボロボロなのに! おかしいよお! 何でギャンブル狂いのキャバクラ好きだって教えてくれなかったの!?」
すぐ近くに警察官がいたので女はあっという間に引きずられていく。終始女は「許さないから、ゆるさないからあああ!」と叫んでいた。はて、なんのことやら。っていうか、誰?
「ママ、あのおばちゃんだあれ?」
「さあ? ライオンキングの練習してた人かな」
「そんなわけないだろ。ライオンキング関係者に謝れ」
「思いついたのライオンキングだったんだもん。ごめんシンバ」
旦那の突っ込みに素直に謝るとなんだかな、と旦那もため息をついた。
「話してたみたいだけど、知り合い?」
「いや? 知らない人だと思うけど」
「向こうは知ってたっぽいだろ。長年会ってない友達とか」
「だいぶ老けてたし年上じゃないかなあ。思いつく先輩いないけど」
ふと、数年前のやつを思い出したけど違うな。あんな老け込んでないし気持ち悪くない、もっと可愛らしい感じだった。男がちやほやするような女子力高い奴だったはずだ。
「人違いでしょ、たぶん。さて、何食べようかな」
「桃華ね、ハンバーグ!」
「ぼくシシャモ!」
「シシャモ……?」
わけわからん、といった様子の旦那に私は小さく笑う。
「ああ、たぶん幸田屋のお子様ランチのミックスフライだよ。あそこのお子様ランチメニュー変わってるよね。普通カキフライとかなのに」
「四歳児と思えないメニューが出てきて一瞬ビビった。じゃあ幸田屋でいいか、昼は」
「そうだね。ハンバーグもあるし」
子供たちがわーい、と喜び旦那と顔を見合わせて笑いあいながら歩き出した。
許さないから、かあ。なんか昔私もあいつらに言った気がするけど、なんだったかな。何か恨みあったっけ。……あ、浮気か。忘れてた、あの後すぐジェットコースターみたいな展開だったし。自叙伝出せそうなほどいろいろあったし。
今思うとそんな復讐するほどでもなかったし根に持つことでもなかった気がしなくもない。一生根に持つことは簡単で、許すのは大変だって言うけど。結局なんやかんや、忘れるのが一番だなと思ったわけで。
そう思えるのは、今が幸せだからかな?
END
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